天下一剣客伝プロデューサーインタビュー


※家庭用PS2ソフト発売直前に、ネオジオフリーク公式ページにアップされていたものを転載しました。

天下一剣客伝に関する記述を中心に一部編纂しています。



「サムスピ」に長く関わりを持ち、この「天下一剣客伝」のプロデューサーを担当されている高屋幸治氏に、AC版を含めたタイトルの注目ポイント、および家庭版の追加情報などについて聞いた――。


――「サムライスピリッツ」シリーズの中において、「天下一剣客伝」はストーリー的にどのような位置付けなのでしょうか?


高屋:これまでの「サムライスピリッツ」シリーズは、作品ごとに時代設定や物語の順序などが設定されていましたが、

今作はシリーズの集大成ということで、全キャラクターが総登場するお祭り的な“パラレルワールド”となっています。  
今作の企画自体は、前作の「零SPECIAL」よりも早く決まっていまして、

当初から「零SPECIAL」は「斬紅郎無双剣」の方向性の、これまでで最もダークなイメージ。

そして「天下一剣客伝」は「真サムライスピリッツ」の方向性の、シリーズ中最もライトなイメージで作ろうと考えていたんです。
 

パラレルとはいえ、キャラクター間の関係などはこれまでの作品を引き継いでいるので、

“お祭りゲーム”ならではのキャラクター間の会話やキャラ毎のエンディングを楽しんでもらえればと思います。



――歴代のスピリッツを選択できるという今回のシステムを採用した経緯などを教えてください。


高屋:開発当初はこれまでのシリーズとは違った方向の物を作ろうとしていたんです。

しかし今作で2Dサムライ最終作になることが分かり、それならば最後を飾るにふさわしい、

やり残しのないものを作ろうということで「全キャラクター登場」「歴代のシステム全採用」となったんです。

アイルランドなど、キャラクターにあまり関係がないステージがあるのは当初の企画の名残りですね。



――その新システムをはじめ、開発での苦労した点などは?


高屋:対戦格闘ゲームである以上、対戦バランスにはかなり気を使いますが、

今作(AC版)では“登場キャラクター40体”“ゲージシステム6個”で

計240通りのキャラクターでプレイできるわけです(厳密には紫ナコルルを含めてプレイアブルキャラクターは41体)。  

この膨大なキャラクター数のゲームバランスをとるのが最も大変でしたね。システムを一つ変更すると、

40体分の作業が必要になる。とにかく作業量が多くて、やってもやっても終わらない(苦笑)。

 開発室にスローガン「次はない!」というのを張り出して、これが最後だということで、ひたすら調整を行いました。

二度とやりたくないですが(笑)。



――ほかに開発で注力した点やファンに注目してほしいところがありましたら教えてください。


高屋:歴史の長いタイトルですから、キャラクターのファンも多いのでキャラクター性を崩さず、

さらに伸ばしていくという部分には気を使いました。

前作の「零」では、隠された設定を出したり、新たな設定を追加したことにより、

ユーザーの反感を買ったこともありましたし。


総集編ということで全キャラクターが登場しますが、「サムライスピリッツ」シリーズは作品ごとに、

全体の雰囲気やキャラクターの性格も微妙に違っているんですよね。

例えば王虎は、歴代登場作品の中でも「初代サムライスピリッツ」と「真サムライスピリッツ」では

グラフィックも性格設定が違っているわけです。  

これまでのファンに「こんなのは王虎じゃない!」と言われないよう、動作や台詞には気を使いました。

 システムに関しても、歴代のシステムをそのまま採用するわけにはいきませんでした。

例えば「斬紅郎無双剣」にあった“空中ガード”をそのまま採用すれば、

ジャンプをしているだけのゲームになってしまう。前作のシステムのイメージを引き継ぎつつ、

全体のバランスを考えて、新しいシステムとして組み込むのは苦労しました。



――アンドリュー、いろはなど新キャラについては?


高屋:今作はお祭りの雰囲気を意識していたので、新キャラクターも影のない明るいキャラクターを目指して

作りました。キャラクター数が非常におおいので、キャラクターの性格も性能も被らないようにするのが大変でしたね。

 アンドリューに関しては、「サムライスピリッツ零」で徳川慶寅という主人公が出ているわけですが、

将来世界幕府を開く夢を持つ慶寅のライバルとして相応しい設定は何か? と考えていたとき

「アメリカ大統領しかいない!」と思ったわけです。しかし、調べてみると「サムライスピリッツ」の時代には、

まだ大統領がいないんですよね。というわけで“第零代大統領アンドリュー”が生まれたと。

銃剣は服装と時代のイメージに沿った武器ということで設定しました。


 いろはは、賛否含めて非常に反響をいただいたようでとても嬉しいですね。

「色気のあるキャラを出したい」という所から作り始めました。

最初は裸体に羽織姿というまさに“恥女”そのものでしたが、デザイナーからの提案により

“鶴の恩返し”と“新妻”をモチーフとして、自然な流れであの姿になりました。

賛否ありましたが、こういうキャラも許容できるのが「サムライスピリッツ」だと思います。

武器は両翼をイメージしてあのような形になりました。

 祭囃子双六は、開発中の仮タイトルが「サムライスピリッツ祭」だったころ、

ボスキャラクターとして作ったキャラです。でも威厳がなかったためか、

気が付くと新キャラクターの枠になっていました。

昔の格闘ゲームには、こういった“ダサかっこいい”キャラが結構いたと思うんですが、

最近では見かけなかったので、どうしても入れたかったんですよ。


見ているだけで笑いが出るいいキャラに仕上がったと思います。

 機巧おちゃ麻呂も、これまでとは別の方向の“変なキャラ”を作りたくて、

考え抜いたあげく“からくり”と“連続入力”をコンセプトとして生まれました。

担当デザイナーのデザイン案がよくて、すぐに決定したのですが、とにかく変な動きをさせようということで、

動作の指定と調整には非常に苦労しました。



――これからはPS2版「サムライスピリッツ 天下一剣客伝」についてうかがいたいのですが、

家庭用への移植が早かったのは何故でしょう?(編集部注:AC版稼動の2日後にPS2版が発表された)


高屋:アーケードを開発する際に、PS2版のことも想定して進行したので、

アーケード版が稼動するころには既に移植自体は終わっていたんですよ。

 ゲームセンターで対戦をやりたくても、なかなか上級者には乱入し難いと思うんですよね。

しかし、家庭用が早くでれば、家で練習をしてゲームセンターで対戦相手を見つけることもできる。

家庭用発売と同時に、ゲームセンターでの対戦プレイが更に盛り上がると嬉しいですね。



――オリジナルスピリッツ、専用キャラなどPS2版の追加要素について教えてください。


高屋:追加要素が多すぎて大変でした(笑)。どこまで言っちゃっていいでしょうかね。

 まずは、PS2専用の追加キャラクターとして、あの黒子が参戦します。新たな必殺技をひっさげて帰ってきました。

さらに隠しキャラクター6体とEXキャラクター4体が追加され、総勢52体のキャラクターが使用可能となります。

隠しキャラには当然、専用のストーリーも用意されていますよ。

しかも、選択できるスピリッツを新たに3つ追加しています。

この中でも自在にシステムのエディットが可能な「祭スピリッツ」では、

専用に新たなシステムも追加されているので、アーケード版のキャラクターでも、

これまでと全く違ったプレイが楽しめます。まさに無限の組み合わせが可能です。

 ほかにも、アレンジBGM、サバイバルモード、プラクティスモード、カラーエディット機能、

ギャラリーモードと追加要素が満載。もう、サービステンコ盛りです。

おまけに、ゲームセンターでやり込んでいるユーザーから不評だった“追い討ち後の投げ”ができなくなる

アレンジモードも搭載しました。



――PS2版はオンライン対戦もできるようになりますね?


高屋:近くにゲームセンターがなかった人や、相手が上手い人にはなかなか乱入し辛く

対戦プレイを楽しめない……、といったことがあると思うんですよ。

それがPS2版では家にいながらにして、いつでも自分のレベルにあった対戦相手を探すことができる。

「サムライスピリッツ」のユーザーというのは、シリーズやキャラクターへの思い入れが強い人たちが多いと

思うんですよ。歴代シリーズもタイトルごとにファンがついているような。

オンライン対戦が盛り上がって「サムスピ」ファンのコミュニティが広がっていけば、

次回作へと繋がっていく可能性はありますよね。



――最後に「サムライスピリッツ」ファンの皆さんに「天下一剣客伝」のPRをお願いします。


高屋:できることはすべてやりました。2D最終作にして最高傑作に仕上がっています。 

では、オンラインで会いましょう。


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