絆〜風間火月・蒼月〜
仙石原。広大なススキ野
SE 吹き荒ぶ風に揺れる、ススキの群生
SE ざざざ・・・・・・! とススキの間を走る足音あって!
SE 跳躍!
火月「(斬りかかる)リャアアアアッ!」
SE 刀と刀が激突! 鍔迫り合いになる
火月「(舌打ち)ちいいッ!」
蒼月「フッ。甘いですよ、火月。何をためらっているのです?」
火月「兄貴とは・・・・・・戦えない!」
蒼月「愚かなことを」
火月「頼むッ、行かせてくれ! 妹を・・・・・・葉月を憐れと思うなら!」
蒼月「そうはいきませんね。忍びの掟は・・・・・・絶対です」
火月「(血がのぼって)あんたにはッ・・・・・・人の心があるのかッ!」
蒼月「忍びには無用です。(斬る)ツアアァァ!」
SE ザクッ! 火月の肩に一撃
火月「ぐあぁぁーーーッ!」
火月の叫び・・・・・・エフェクトで飛ばして〜〜F・O〜〜
仙石の村。カラスの鳴き声が死の影を匂わせる
火月「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。う・・・・・・うう・・・・・・」
SE 土間の引き戸が開き、入ってくる足音
弥生「お水・・・・・・飲める?」
火月「水? く、くれ・・・・・・早く・・・・・・」
SE 火月の口に注がれる水
火月「(むさぼるように飲み)・・・・・・! はぁ! はぁ! はぁ!」
弥生「もう大丈夫ね。よかったわ」
火月「・・・・・・おれは・・・・・・確か、斬られて・・・・・・」
弥生「山の中に倒れていたのよ。三日間もうなされて、一時は本当にだめかと思った」
火月「そうか、助けてくれたんだな・・・・・・礼を言わなくては(と、見て)ハッ?! お前ッ・・・・・・葉月!!」
弥生「えッ?」
SE バッと起き上がり、弥生の袖をつかむ火月
火月「葉月! どうしてここに?! 身体はもういいのかッ!」
弥生「ちょ、ちょっと・・・・・・」
火月「治ったんだな葉月・・・・・・治ったんだな! ああ、これで安心して死ねる」
弥生「ま、待って! 違うわ! 私、葉月って人じゃない」
火月「なに?」
弥生「人違いよ! 私は弥生。この村の百姓の娘」
火月「やよい?」
弥生「よく見てよ、ほら!」
火月「う・・・・・・」
弥生「起きちゃだめ・・・・・・せっかく命をとりとめたのに」
火月「あ、ああ・・・・・・」
SE 再び床につく火月
火月「人・・・・・・違いか。すまなかったな・・・・・・あんまり似てたもんだから・・・・・・」
弥生「よほど大事な人なのね? その葉月という人」
火月「ああ・・・・・・俺たち兄弟にとっては・・・・・・お天道様みたいなもんだったよ」
弥生「お天道様・・・・・・?」
火月「お天道様がなくなれば・・・・・・俺たち月も・・・・・・輝けない。兄貴はなぜ・・・・・・
(また意識が朦朧としてくる)それが・・・・・・分からないんだ・・・・・・。
ああ・・・・・・葉月・・・・・・待ってろ・・・・・・必ず助けて・・・・・・やる・・・・・・から・・・・・・な(気を失う)」
弥生「あッ! ちょっと! ねぇッ?! ・・・・・・(ため息)また、気を失ったわ・・・・・・」
SE ガタッ・・・・・・と土間の引き戸が開く
蒼月「(OFF)弥生」
弥生「あ。蒼月・・・・・・」
蒼月「(IN)火月は・・・・・・どうです?」
弥生「まだ良くないけど・・・・・・回復には向かってるわ」
蒼月「そうですか・・・・・・あなたが拾ってこなければ、あのまま冷たくなっていたものを」
弥生「本心かしら、それ?」
蒼月「さぁ?」
弥生「むごすぎるわ。こんなにもお互いを思い合ってる兄弟なのに・・・・・・!」
蒼月「(強く)いい加減になさい、弥生」
弥生「えッ?!」
蒼月「あなたの行いは、忍びの里への・・・・・・重大な裏切りですよ」
弥生「なんですって?」
蒼月「あなたの役目は、私が本当に弟を殺せるかどうか見届けることでしょう? なのに・・・・・・
情にほだされてどうするんです」
弥生「(驚愕して)蒼月・・・・・・そんなこと、よく口にできるわね?」
蒼月「(外へ出ていきつつ)里の掟は知っていますよね? いずれ、消されますよ」
弥生「・・・・・・」
蒼月「(OFF)今回だけは、あなたも火月も見逃しましょう。でも、次はないと思ってください」
弥生「(怒りに震え)蒼月・・・・・・」
SE 引き戸を閉めかける蒼月。が・・・・・・一度止まって
蒼月「(OFF)弥生」
弥生「なによッ」
やや、考える間があって・・・・・・
蒼月「(OFF)・・・・・・弟のこと・・・・・・感謝します・・・・・・」
弥生「え・・・・・・?」
SE パタン! 閉まる引き戸
火月「(うなされて)う・・・・・・あうう・・・・・・。兄貴・・・・・・俺は・・・・・・葉月を助けるんだ・・・・・・葉月をッ。
ああ・・・・・・はづき・・・・・・死ぬな。 にいさんが、今行くぞ・・・・・・今すぐにッ・・・・・・だから、生きろ!」
(終劇)