| 序の章 神の瞳の降臨 起 |
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この華やかな都で、あの素敵な宮中で認められるための辛い旅ではなかったの? そのくるくるとした大きな瞳いっぱいに苛立ちを込めた少女は思わず、足元の砂を蹴り上げる。 この周辺にもサソリがいるかもしれないという、年上の先導者の言葉に当てつけるかのように。 彼女ミウは、このタウイの国のはるか南、タウイの内部に全40区存在するセパト(行政区)の一つ・メヘンのある村で生まれ育った。 村人たちの大半は、農耕で生計を立てており、時たま訪れる楽師たちの笛や太鼓の音に慰められるほかに、これといって娯楽もないがのどかな暮らしを送っていた。 楽師たちの訪れが待ち遠しかったからなのか、ミウは幼い頃から一人でよく歌を歌っていた。 そのうちに、周囲の同じ年頃の女の子たちと、将来必ず訪れるであろう婚礼についてあれやこれやと他愛もない予測をしたり、村の男の子たちの品定めをしたり、彼女らの姉や近隣の年上の娘たちから伝え聞いた秘め事について話を交わすことよりも、歌を歌うことの方が楽しくなっていった。 彼女の父と母は、いい顔をしなかった。 娘の幸せとは、まじめに働く若者の妻となって、立派な働き手となる世継ぎを産み育てることの他にはない。 流浪の楽師の中には女性の一団もあるが、女だけの一行で国土の大半が砂漠であるタウイを旅し続けることがどれほど辛いか。 体は常に埃まみれとなり、タウイの厳しい日差しにさらされて肌は焼け、旅の道程の半分以上を占める砂漠にはサソリや、一匹で暮らす習性があるが、その分狩りに容赦のない残忍なオオカミなど、恐ろしい生き物がうようよしている。 そして、タウイの都の王府に恭順の意を示さない遊牧の人々、“砂漠の民”とタウイの民が呼ぶ者たちに襲われ、いい様にされてしまう恐れも充分にあるのだ。 ミウの父と母が思う楽師の旅の暮らしとはそのようなものだったから、娘にそんな暮らしをさせることを望むはずがなかった。 だが親の思いとは裏腹に、楽師たちに近づきその歌を誉められたミウは、いよいよ楽師として生きることに憧れを持つようになっていった。 そしてミウが楽師たちに聞いたこの国、タウイの都の話。 タ=ウル、すなわち“最も古き偉大な土地”、と言う名を持つ壮麗なる都市(まち)。 土をこねて作られた家しか見たことのないミウが想像すらできない、白い巨石で作られた壮大な建物が立ち並ぶ、最も神々と近しい人々である王族や第一級の神官たちのみが住まう都市。 その中でも一際目を引く、殊更に白く壮大で、華麗なる建物は王府。 その名をイネブ=ヘジュ、白き壁と呼ぶ。 王府の中央には、一際に優美な純白の塔が立ち、それはメン=ネフェル、“不滅の美の恒久なるもの”と呼ばれ、タウイの支柱である“神殿の巫女”が住まう塔だった。 神殿の巫女。 ミウや、彼女の村の人々にとっては、確かに存在している方ではあっても、合間見えることなど叶わぬ雲の上の方、ある意味ではおとぎ話の中の存在でしかない。 神殿の巫女は、神と直接話すことを許された唯一の方だという。 広大な天球を、毎日毎夜旅する輝く大きな円盤。 その円盤の中心で、正しい路を守って旅をするのは太陽の神、天を行く神と呼ばれるラー。 ラーが天空を横切り、地平線の下に入ると、天空は夜と闇の領域となる。 ラーが地平線の下を旅する間、地平線の下、大地の根の国を治める神オシリスは、ラーの不在を埋め合わせるために、彼の治める地下の国に住まう無数の魂たち・・・・・・・それは、オシリスが己が国に住まうにふさわしいと判断した、死せる善き人々の魂・・・・・・を天空に上げ、輝きを放たせる。 それ故に、死した人々の国の王オシリスは、星々の主と呼ばれている。 神殿の巫女にのみ話しかけるという神は、そのラーとオシリス。 どうすれば、タウイの国の人々が正しく、そして幸せに過ごせるかを。 どうすれば、国に降りかかるさまざまな災いを賢くそらせることができるかを。 |