序の章 神の瞳の降臨 起 2


=ウルの都のさまざまなことを話して聞かせてくれた楽師の話の中で、最もミウの心を捉えたのは、宮中のお抱え楽師たちの話だった。

=ウルには、タウイの国中から楽師のみならずさまざまな職種のものたちが集まるが、楽師たちにとって最高の栄誉であり、同時に最大の出世とも言えるのは、王府イネブ=ヘジュのお抱え楽師団となることだった。

王府に属する楽師たちは、タウイを支える人々を、引いてはこの世界を支える神・太陽のラーと星々の主オシリスを楽の音でお慰めするものとして、破格の栄誉と待遇を得るのだと言う。

神殿の巫女に合間見えることもでき、さらに『聖婚』が行われる暁には、寿ぎの楽を奏でる栄誉に浴することもできるというのだ。

聖婚。

このタウイの国を支える、最も重要なる婚礼。

神殿の巫女が世継ぎを得るための婚儀である。

タウイの支柱と言える神殿の巫女は、タウイ一の勇敢なる男、男の中の男をその相手として選び、彼の血肉を受けて子を宿すのだ。

彼女の胎に宿るのは、新たなるタウイの支柱、次なる神殿の巫女となる娘。

男子であれば。母である神殿の巫女の後ろ盾を持ち、母が身罷れば次代の、選抜された新たな神殿の巫女を補佐として政を行う“聖王”としてタウイに君臨することとなろう。

男は巫女にはなれない。

神の言葉を直接伺う栄誉に浴することができるのは、女だけと言われている。

女は体の中に命を宿し育てる。

この世に魂が出でて活動するための礎である肉体を作り、送り出す。

それは神の御業の映しであるからだ。

現実には、女はそれ以外の“創造性”においては男に劣るとみなされ、社会の中で重要な役割を担うことは少ないとしても。

 

地位と名誉と、それなりの役割を担うことのできる数少ない女性たちの中に、楽師の女性たちがいる。

特に歌い手の女性の地位は高く、周囲の目も違う。

歌とは、言の葉と音の色を組み合わせることにより、最も神の言葉に近づく神聖な業である、とタウイでは古来より捉えられている。

つまり、命を宿す器である女が、神の言葉に近づくために歌うことは神々に、そして神と語らう神殿の巫女に対する最高の捧げ物であるのだ。

 

旅の楽師たちからその話を聞き出した時。ミウにとってのすべての夢、すべての果たすべき目標は王府イネブ=ヘジュで、そして神殿の巫女の塔メン=ネフェルで、楽師となって歌うことのほかにはなくなった。

あたしは必ず、神殿の巫女さまたちを、引いては神様たちを喜ばせる歌を歌ってみせる。

故郷の村で、やがて村の中の誰かと婚礼をあげ、その子どもを養い育て日がな一日家族の世話と農耕に追われ、そうやって終わっていくであろう一生にもはや興味はなかった。

 

しかしミウも、父と母が自分の夢を慶んでくれるはずもないことは充分に理解していた。

楽師たちに紛れてこっそりと出て行く計画を夢見てはいたが、彼女の歌が素晴らしくはあっても、楽師たちにとっては余計な食い扶持が増えるということの方が問題であり、ミウの計画が実現する日は遠かった。

ミウの両親の旅の楽師の厳しい生活に対する洞察は、あながち間違いではなかったのである。

 

どうやって、村を出て行けばいいんだろう。

思案するミウの前に、ある日二人組みの女楽師たちが現れた。

たった二人きりの楽師というのは珍しい、というよりこれまでに例がなかったので、村人たちも怪訝に思った。

 

その二人組みの女楽師たちの一人は琴を奏で、一人は笛を吹いた。

女楽師といえば殆どの場合存在するはずの、歌い手が彼女たちの中にはいなかった。

それで楽師として商売になるのかね。

他人事とは言えど、村人たちは夜誰かの家に集う際の話の肴にささやきあった。

ミウにとっての関心ごとは一つ。彼女たち二人は、タ=ウルの都に行くのかどうかという点だった。

それを確認するためにミウは、村はずれの粗末な無人の小屋に寝泊りする彼女たちを訪ねた。


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