覇王丸
オープニング
ナコルルの登場
四人目
ナコルルの導き(朧衆戦前)
ナコルルの導き(朧衆戦後)
十人目
十四人目
エンディング
枯華院により続く長い賛同の側にある大木を見上げている。旧知の少女を感じた気がしたのは此処だった。
懐かしい記憶である。あの刻より齢を重ね、過去は伝説となっていた。
張り合いのある猛者も、いつしか居なくなっていた。
何処からかあの少女が、昔のように呼んだ気がした。
……大海の孤島であなたの求める全てがあります。……その場所で逢いましょう。
風にゆれる木々の葉音が、少女の声に聞こえたのだろうか。
一人の娘の面差しが、覇王丸の脳裏をよぎった。黄昏に消えた女の忘れ形見であり、数年前、忽然と枯華院から姿を消した娘。
名を命(みこと)と云った。
大木の先の晴れ渡る虚空を見つめる覇王丸。
「離天京……戻らねばならぬか修羅道へ」
参道をいく覇王丸の目が、鋭く輝き始めた。
ナコルル「お願い……。助けて、暗黒の闇が……。黒い力が……。破壊が……来るの……。
どうか……。あなたの……力で……。邪悪な力を……止めて……下さい。覇業三刃衆を……」
凜花「……」
覇王丸「娘。その太刀、お前の太刀か?」
凜花「だれだいあんた?」
覇王丸「すまんな、ただその太刀が気に止まってな」
凜花「こっ、これはあたしの……あたしの刀だ!!」
覇王丸「そうか……お前の様な、幼い娘が剣士とはな」
凜花「なっなんだって!!」
覇王丸「娘、何故お前はそんなに悲しい目で剣を振る」
凜花「ほっ、ほっといてくれ!!」
覇王丸「いや、すまん。いらぬ問いだったな。
だが剣の道を捨てるなら、今しかないぞ」
凜花「……」
覇王丸「じゃあな」
凜花「待ちなっ!! あたしと勝負しな!!」
覇王丸「オイオイ……その瞳、引き返す気はないようだな」
ナコルル「覇王丸さん……。20年ぶりね。またあなたの力が必要になったの。今、大変な事がおこっているの。
邪悪な意志を引き継ぐ覇業三刃衆によって……。
その中には、貴方が探しているアスラと色の子、命もいます。
お願い、覇王丸さん。今からする話をよく聞いて。20年前……。
邪悪な意志の元となった人物が現れたの。名前は朧(おぼろ)。その人物は、今の世の中を混乱させて、強い者だけが生き残る国を創ろうとしているわ。
その時に朧は、邪魔になる私たち光の巫女をおそれて封印したの。
お願い。私はもうこれ以上うごけないから。でも、もう一人の光の巫女。彼女ならきっとあなたの助けになるはずよ。
彼女はこの先で永い眠りについているわ。お願い、あの娘を助けてあげて。名前はリムルル。私の妹なの」
朧衆「光の巫女を助けに来ただと。己ごときの力量で我々を倒しに来たとは笑止! 返り討ちにしてくれるわ。覚悟!」
「ありがとう。もうすぐこのリムルルも目を覚ますわ。貴方が傷つき、先の道へ進めなくなった時、リムルルがあなたの助けになると思うの。
ありがとう……。どうか……邪悪な意志を……滅ぼして……」
大熊猫「シュタッ!! ……見っ見つけたっ」
覇王丸「しゅたっ? ……誰だ、オメエ」
大熊猫「タ、ターションマオ」
覇王丸「で? そのタチションマルが何の用だ」
大熊猫「タ〜ションマオ〜ッ!!」
覇王丸「何なんだよ、オメエは?」
大熊猫「どっどういう関係さ」
覇王丸「何が?」
大熊猫「ボクの妖精さんと、どおいう〜関係〜なんだよぉ〜っ!?」
覇王丸「妖精? ……なに言ってんだ、オメエ」
大熊猫「妖精さんはボクだけ、ボクだけで……いいんだ、いいんだ」
覇王丸「……おめえ、熱でもあるんじゃねえのか?」
大熊猫「キッキライッ!! キライダ!! オマエナンテ大キライダァ〜!!」
覇王丸「わりいな、じいさん。あんたん所にいる娘を貰い受けにきた」
朧「フォフォフォ。命殿の身内の者かな。愚かな奴よのう。で、名は何と申す?」
覇王丸「覇王丸」
朧「覇王丸……。おうおうおう、この老いた耳にも届いておるわい。おのれの剣のみで、幾多の凶事をも斬りふせ、
そしていまだ剣の道を極めんとする者。伝説にまでなった男。……覇・王・丸。ヌシであったか」
覇王丸「感心してもらって光栄だが、そういうおめえの体からもずいぶんと血の匂いがするぜ」
朧「クックック、分かるかよ。修羅の道を生き抜いたヌシには、この老いぼれの血のたぎりが!!」
覇王丸「…………。我が迷い、やはり剣で斬り開くしかないようだな」
朧「こんな所でヌシと死合えるとは、嬉しいぞ。つぶれろや、覇王丸」
刀馬「オレは誰よりも深く高い次元に君臨する。命よ!! オレを愛しているならば、その為の糧となれるか!!
ならば待っていろ。オレは再び戻ってくる。オマエとヤツを我が剣の糧とする為に!!」
命「刀馬様!! …………」
(天幻城のバルコニーから空を見上げる命)
命「刀馬様……。母さま、父さま……私本当は恐ろしい……。この苦痛に耐えられるかどうか、分からない。
でも、あの方を救いたい。どうか……私に勇気を、勇気を下さい……。……」
覇王丸「やはり、あの男は消えたか」
(背後に立つ覇王丸を振り向く命)
命「……叔父様」
覇王丸「今のあの男は夜叉だ……。自分以外の者を許す事が出来ない。剣の道にしか生きられない鬼そのもの……」
命「あの方は私に言いました。『我が剣の糧となれるか』と……」
覇王丸「……」
命「叔父様……私あの方を待ち続けてもいいですか……? どんなに辛く苦しい未来が待っていたとしても、あの方を救いたいのです。
だから、待ち続けたい……」
覇王丸「随分見ない間に、いい女になったな……命」
(バルコニーに並ぶ覇王丸と命)
命「クスッ……叔父様らしくない言葉ですね」
覇王丸「やはり血は争えんか。色と……おまえの母と良く似てきた」
命「……母さまと?」
覇王丸「おまえの母も長い苦しみと悲しみを乗り越え、その果てに、おまえが生まれた。
その美しい真紅の瞳が、愛に生きた母と、おまえと母の為に滅びた勇敢なる父の証だ」
命「母さまと父さまの証……」
覇王丸「その瞳……まだ許す事ができぬか?」
(空を見上げる命)
命「いいえ、許すなんて……。この瞳があるからこそ私はあの方に出会えた。そして待ち続ける事が出来る……」
覇王丸「そうか……」
(命の肩に手を置く覇王丸)
覇王丸「だがな命、待っている者はおまえだけではないぞ」
命「……! お爺様!! それに骸羅叔父様!!」
覇王丸「和狆の爺さんは、心配であの世に行ってしまったかもしれねえな」
命「まあ叔父様、なんて事を!!」
覇王丸「ハハハッすまん。だがおまえを人一倍心配していたのは、あの爺さんだぞ。
一日も早くその元気な姿を見せてやれ」
命「はい……。いつまでもめそめそしていられませんね……。私には、お爺様も叔父様達も、
それに母さま父さまも見守って下さるんですもの。私、すぐ支度してきます」
覇王丸「ああ……」
(命が退出した後、腕組みをして立つ覇王丸)
覇王丸「……九鬼刀馬。あの男……何処かオマエに似ているな……。幻十郎……。
俺たちが目指した侍の道は、一体何処へ向かって続いているんだろうな……」