吉野凛花
オープニング
四人目
ナコルルの導き(朧衆戦前)
ナコルルの導き(朧衆戦後)
九人目
十一人目
エンディング
反幕府組織がある居住区の一軒家に、一人と一匹が住んでいる。吉野凜花と愛鼠・鉄之介である。
そもそも、彼女はここ、離天京の生まれではない。名立たる武家の息女であった。その父は夢想夕雲流という新剣術を編み出した程の人物であり、大名御抱え指南役でもあった。
そんな父が、謀反を企てたとして、藩に追われ、母は陰謀の犠牲となる、父もまた、離天京で幕府の手により捕らわれ打ち首となった……。
全て失い生きる屍になっていた所を、この居住区に住む人々に救われたのだ。銃士浪とサヤ(沙耶)に出会ったのもここである。
恵まれた環境には程遠い暮らしだが、人々の澄んだ心が、閉ざした心を幾分か癒してくれた。
此処でない所で生き長らえても、廃人同様の生き方しか出来てなかったであろう。
もう甘えてばかりはいられない……鉄之介に呟く。
「いつか、今の自分から抜け出せる日が来るはず……。その時はここから出よう、オマエと、この父さんの剣と共に」
己の決めた道に向かって一人と一匹が、いま旅立つ。
ナコルル「お願い……。助けて、暗黒の闇が……。黒い力が……。破壊が……来るの……。
どうか……。あなたの……力で……。邪悪な力を……止めて……下さい。覇業三刃衆を……」
夜血「おい、小娘」
凜花「…………」
夜血「ここは、是衒街だぜ。アンタみたいなオジョーチャンがくる場所じゃないんだよ。ママのひざの上にでも帰りな」
凜花「行こう、鉄之介……」
鉄之介「ヂッ」
夜血「オイ!! 待ちなよ、金がいるなら、オレが買ってやるヨ、オジョーチャン」
凜花「男がベラベラ喋るんじゃないよっ!!」
夜血「なんだと!! アンタ、泣きたいらしいな。イイヨ……ナケヨ。タップリと時間をかけてな!」
ナコルル「私の話を聞いて。私の名はナコルル。光の巫女。あなたにお願いがあるの。
今、あなたの目指している人は、恐ろしい人達の仲間。その人達の名前は、覇業三刃衆。
邪悪な意志を継ぐ恐ろしい人達……。二十年前……。邪悪な意志の元となった人物が現れたの。名前は朧。
その人物は、今の世の中を混乱させて、強い者だけが生き残る国を創ろうとしているわ。
その時に朧は、邪魔になる私たち光の巫女を恐れて封印したの。お願い。私はもうこれ以上うごけないから。
でも、もう一人の光の巫女。彼女ならきっとあなたの助けになるはずよ。彼女はこの先で永い眠りについているわ。
お願い、あの娘を助けてあげて。名前はリムルル。私の妹なの」
朧衆「光の巫女を助けに来ただと。己ごときの力量で我々を倒しに来たとは笑止!返り討ちにしてくれるわ。覚悟!」
ナコルル「ありがとう。もうすぐこのリムルルも目を覚ますわ。貴方が傷つき、先の道へ進めなくなった時、リムルルがあなたの助けになると思うの。
ありがとう……。どうか……邪悪な意志を……滅ぼして……」
凜花「あんたも、ヤツらの仲間だろ」
蒼志狼「オレには関係のナイ事だ」
凜花「ウソをいうんじゃないよっ」
蒼志狼「…………」
凜花「じゃあ、その腰につけてる物はなんだい。お前達侍は、いつもウソばかりだ。弱い者にしかその飾り物を抜けない、腰抜けばかりさっ!!」
蒼志狼「そんな事で、オレにからまないでくれないか。この世で生きていたいのなら強くなればいい」
凜花「そんな事だって……。あんたたちのような奴のために……。何人の人間が辛い目に逢ってると思ってるんだ!!
なぜ、あんたたちみたいな奴が……」
蒼志狼「訳など聞くな。それが現実だ」
凜花「何だって!! じゃあその太刀を抜きな!! あたしが、現実とやらを見せてやるよ」
蒼志狼「眠いんだ……。静かにしてくれ」
迅衛門「もしっ!! そこの娘」
凜花「……侍?」
迅衛門「一つ尋ねるが、もしやその細腕で剣を振るうのか?」
凜花「だったらどうなんだい」
迅衛門「うむ~ぅこの離天京、何という所じゃ。こんな娘子までが、生きるのに剣が必要とは……。狂っとる」
凜花「そういう偽善が、この世を作り上げたんだよ。あんたたち侍がねっ!」
迅衛門「偽善っ! 娘っ、侍が偽善だというのか?」
凜花「弱い者を踏みつけて、私腹を肥やす。それしか考えてないのさ、侍なんて」
迅衛門「武士道とは、そんなものではないぞっ」
凜花「ならばその武士道とやら、あたしに見せてみな!!」
迅衛門「いっ、いやそれがしは、そんなつもりでは……」
凜花「つべこべいってんじゃないよ。いくよっ!!」
(森の中、木を背に佇む蒼志狼の前にやって来た凜花)
凜花「『生きていたいのなら、強くなれ』って。今なら少しだけど、分かった気がするよ。
ちっぽけなアタシなんかより、あの村の人たちの方が、何十倍も、強く生き抜いてる」
蒼志狼「…………」
凜花「私、この島から出て行くよ。鉄之介と、この父さんの剣と共に。
今なら、こんな自分から抜け出せると思うから」
蒼志狼「…………」
(少し寂しそうに、肩の鉄之介に触れる凜花)
凜花「今度は何も言ってくれないの……。仕方ないよね、あんな事したんだから……。
……じゃあ、行くよ。元気でね、色男」
(立ち去っていく凜花)
凜花「今はまだ言えないけど、この次に会うとしたらきっと言えるはず……。『アリガトウ』って」
鉄之介「ジッ~~ッ!!」
(先程より傾いでいる蒼志狼。寝息が聞こえる)
蒼志狼「…………。……スゥーーー……スゥーーー……スゥーーーッ」
(立って眠る蒼志狼を背に歩む凜花の明るい表情)