幽堕
闇の中……無気味に光る赤い眼光。
ここは何処だ……オレは誰だ……分からない……ユダ……オレの名か? …………。
離天京に向かう貿易船の貨物室に、その男は潜んでいた。
この時代を彷徨っている時、幕府御三家と呼ばれる内の雄藩に発見され拘束される。
その雄藩というのが、朧衆と密通しており、朧らの計画が成功した折りには、将軍家の座を貰い受ける取り引きが成立していた。
だが、離天京へ幕府最強と詠われる、御庭番と伊賀忍軍が動き出したとの報に、己らの陰謀が表沙汰になる事を懸念し、
この始末屋を切り札として送り込む。
全てを無に帰せ……。
その衝動が、男を突き動かす。人知を超えるとも云える剣の強さは、その衝動さえ可能なものだと思えてくる……。
離天京に着いた船に、人は誰もいなかった。
あるのは、船員全員の屍のみであった……。
離天京の一掃という任務を遂行すべく『漆黒の死神』が、今その地に降り立つ。
覇王丸「まさか?」
幽堕「…………」
覇王丸「オメエ、もしかして……」
幽堕「道を開けてもらおう。さもなくば、死ね」
覇王丸「その黒い衣、その真紅に光る野獣の目。20年近くになるな、オメエと会ってから」
幽堕「…………」
『シュッ!!』
『ギチッ!!』
覇王丸「クックックッ、オメエの斬撃、昔と全く変わっちゃいねえな」
幽堕「何者だ」
覇王丸「忘れちまったのか? あのユガとの戦いのおり、一度手合わせしたじゃねえか」
幽堕「ユ・ガ・ユガだと、何をいっている」
覇王丸「オメエ、まさか? ユガの事忘れちまったんじゃねえだろうな、アスラ!」
幽堕「…………」
覇王丸「じゃあ、もう一人のアスラの事も……あの女、色の事も」
幽堕「ア・ス・ラ……シ・キ……?」
覇王丸「どうしちまったんだ、いったい?」
幽堕「時は……満ちた。死ね」
覇王丸「今のオメエはまるで死神! 永い間渇ききったこの刀!! オレの斬撃も老いちゃいないぜっ!!」
幽堕「闇、闇、闇、闇、闇……………………。ここは、何処だ……」
闇の声『無限に広がる闇、無限の時』『無き場所、無き存在』『堕ちろ、無限の奈落へ』『時を司る蛇、ユガよ』
『その七枚の翼がその証』『七王の頂に君臨する者、ユダよ』
アスラ(目覚めよ、我が名はアスラ)
幽堕「誰だ?」
闇の声『我らが主よ、時の蛇に永劫の滅をっ!!』
アスラ(時の蛇は、まだ……)
幽堕「何をいっている?」
色「この子の中にあなたと同じ血が流れているのです」
命(悪魔)(全テヲ滅ボセ!!)
幽堕「誰だ!!」
命(天使)(ワ・タ・ク・シ・ヲ・タ・ス・ケ・テ……。ダ・レ・カ・ワ・タ・ク・シ・ヲ・タ・ス・ケ・テ)
幽堕「……ここは、オレの場所ではない」
蒼志狼「眠っている所悪いが、それはオレのセリフだ」
幽堕「誰だ、キサマ」
蒼志狼「悪いがそれもオレのセリフだ。なぜ迅衛門を斬った。オマエは何者だ」
幽堕「………。クキ・セイシロウだな」
蒼志狼「何だと、なぜそれを知っている?」
幽堕「ナゼは、ない。キサマにあるのは絶対的死のみだ」
蒼志狼「オマエに一言だけいっておく。頂にたどり着けるのは、オマエではない。オレだ!!」
朧「ヒッヒッヒッなんという殺気。ヌシは何者じゃ」
幽堕「キサマ達全てに死の時が訪れた」
朧「ヒッ!! カカカカッ。ぬかしよるわ。だがヌシの殺気、この朧でもちびりそうじゃわい。正に死そのもの」
幽堕「苦痛を受け入れよ。闇が死を司る」
朧「この朧が震えておるわい。なんと恐ろしい奴じゃ。じゃが、そう易々と死神を受け入れると思うてか!!
何者かは知らぬが、死ぬのはウヌの方じゃ!!」
命「誰か……助けて。もう私には止めきれない」
命(悪魔)『全てを無に帰せ』
命「オジイ……サマ……。タ・ス・ケ・テ……。オジイサマ……。ク・ル・シ・イ……。ト・ウ・マ・サ・マ……。………………」
『ゴゴゴゴゴゴゥッ!!』
命(悪魔)「フフフフフッハハハハッ。しぶとい奴じゃ。素直にワラワを受け入れておれば、苦しまずにすんだものをのう。
闇が来る、ワラワを救いに真の闇がのう……。愛しや。黒き者が、ワラワを解放してくれる。永かったわえ。あやつがわらわを封じ込めて
より、
ワラワの魂を解放する者をどれだけ待った事か。来たわえ。来たわえ」
幽堕「…………。オレを呼んだのはキサマか」
命(悪魔)「ああっ。愛しや。あぁ。そうじゃワラワが、ワラワが呼んだのじゃ!! はよう、はようワラワの闇を解放しや!!」
幽堕「オレを呼んだのはキサマではない」
命(悪魔)「なっ!! 何をいいやる。ソナタを呼んだのはワラワじゃ!!」
幽堕「アスラよ。閉ざされし扉、今開かれた」
命(悪魔)「何をいうておる!! オオオゥ!!」
幽堕「あの時滅びるべきだったのだ、かりそめの魂よ。キサマは滅びる為に生まれてきた」
命(悪魔)「お願いじゃ、ワラワを救うてくれっ!!」
幽堕「時を司る者よ、キサマの行く場所は、無限の闇だ」
(命(悪魔)を鎖で拘束(アスラ斬魔伝時代の超必殺技サタナス?)し首を掴みあげる幽堕)
命(悪魔)「ウッ……ウウウ……何……何故じゃ……何故ワラワを開放せぬ」
幽堕「その娘の魂に乗り移り、本性を隠したつもりか」
命(悪魔)「グォッ………グギィッ……ギィ!!」
(イメージシーン。剣を抜き闘うアスラと反面のアスラ、その後ろに巨大な女性形態の壊帝ユガ)
幽堕「忘れたのか、時の蛇ユガよ……オレはアスラ(無き者)、そして復讐者。古の時、キサマに翼をもぎ取られ、闇へと堕ちた者」
命(悪魔)「ギッ、ギギギッ……」
(アスラ斬魔伝時代の回想か。ユガの居城内にて、崩れ落ちる女性形態の壊帝ユガの前に剣を持ち立つアスラ)
幽堕「そしてオレは甦った。真の闇を統べる者として。……無窮の闇へと滅びろ」
(命(悪魔)の首を絞め続けている幽堕。命の背後に浮かび上がる女性形態のユガ=時の蛇)
幽堕「キサマが下した万霊の悲しみと、我が永劫の痛みと共に」
『……ゴゴゴゴゴ!!』
命(悪魔)「ギッ……ギッギギ……ギャァァァァッ……。…………………………………………」
(横たわったまま顔を上げる命、その後ろにオーラを放ちながら立つ幽堕)
命(天使)「……心から……心から闇……が消えた」
幽堕「全ては滅びた」
命(天使)「……アスラ……アスラ、その私と同じ真紅の瞳。……もしかして……」
(アスラの七つの武器を手にした、『魔界の七王』たちの姿)
幽堕「闇に帰す時が、訪れた」
『……ゴゴゴゴゴ!!』
命(天使)「ま、待って……待って下さい……あなたは……」
(七王を背後に立つ幽堕の隣に浮かび上がる反面のアスラの姿)
幽堕「聞け」
色「聞きなさい命よ」
アスラ「ここからはオマエの来るべき所ではない」
命(天使)「……もしかして……父さまなの……」
魔界の七王「我らが七王、永劫の彼方より万魔の王が甦りし時、お待ちしておりました」
命(天使)「あなたは……いったい……」
(七王が開いた?次元の扉へと向かう幽堕の後姿。その背に浮かぶ八枚の翼)
幽堕「オレの名はユダ……これ以上オレに関わるな」