剣魂〜サムライスピリッツ画集〜 平成十一年発行(一六六〜一六九頁)より
・SNKへの道
編:はじめに自己紹介をお願いします。
北:御大の方からどうぞ。
白井:えっ、私ですか(笑)? えーと、一生の不覚、た○れぱんだにハマっている白井影二です。江戸時代に生まれたらよかったなあと、未だに後悔している人生であります。
北:北千里と申します。イラストレーター歴は、ほとんどないんですが、この会社(SNK)には長いこといます。サムライにはドッターとして、
初代から今(時期的にアスラ斬魔伝?)までずっと関わっています。
白井:北さんは、真サムライのキャラクターの勝ちデモで、メインに絵が出てきたんだよね。見たら一発でわかる。
北:そうですか?
編:ところで、お二人のPNの由来をお聞きしたいのですが。
白井:「竜虎の拳2」に如月影二というキャラがいるんですが、ABCDボタンで色が変わるんですよ。
で、私は真っ白い影二になるBボタンを使ってたんで、白井影二。だから「しらい」じゃなくて「しろい」なんです。
編:それ以前はどんなPNを使っていたのですか?
白井:それまで、うちのイラストレーターは、雑誌とかに記名でイラストが載るっていうことがなかったんですよ。
でも、何かの表紙を描いた時に、イラストレーターの名前を入れるのでPNを付けて下さいって言われて、その時に付けました。
北:私の場合は、大阪の地名の「北千里」からです。そのままですね(笑)。
編:お二人の初仕事は何だったのですか?
白井:私は、「餓狼伝説2」のキャラクターイラストと、国内版のポスターです。
北:私の場合はドッターなんで、初体験の仕事は初代サムライのママハハなんです。あとは、ナコルルステージの動物たち。
白井:あの怪しいクマ…(笑)
北:他の動物は4アクションで描けっていう指令があったんですよ。でも、クマぐらい8にさせて下さいって動かしてみたら、ああいう動きに…。
あと、冬だから息が白くなるだろうって白くしたら、鼻息荒いみたいになってしまって…。
白井:で、伝説のクマが…(笑)。
北:でもね、あれ、母親なんですよ。みなさん、誤解されているかもしれないけど。足もとに仔グマがちゃんといるんですよ。
編:そうだったんですか(笑)。北さんのイラストレーターとしての初仕事の方はいかがですか?
北:イラストの初仕事は、真サムライの取扱説明書に入ってるイラストの線画ですね。あれが、お手伝いとして描いた最初のものです。
着彩まで手がけたのは、アスラからです。
・イラストを描く
編:大変人気があるお二人のイラストですが、画材は主にどんなものを使われていますか?
白井:サムライに入ってからは、絵的に墨が合うので、炭を使ってます。一番気に入ってる画材っていうと墨ですね。
編:墨は、サムライになってから本格的に使い始めたのですか?
白井:そうですね。餓狼の次にサムライの担当になった時、餓狼と同じ絵を描いていたのではいけないから、ちょっと雰囲気を変えていこうということになったんです。
で、一番最初に、次のゲームは白土三平さんとか手塚治虫さんの雰囲気のするゲームだと言われてたので、こんな感じかなあって試しに墨で描いてみたら、
そのままこれでいきましょうということになりました。
編:墨で描くというのは、初めての試みでしたよね?
白井:ゲーム自身も、刀を持ってっていうのは初めてだったのですよ。
だから、イラストも、今まで他のメーカーのゲームに一切なかったものでいこうということになりました。
(中略)
編:北さんは、ずっとデータで描かれているとお聞きしましたが?
北:そうです。どうしてデータかっていうと、ゲーム画面にそのままデータとして落とせるからなんですよ。
私の場合は、完全に元がゲームから派生していて、画面に使うことが前提なので、そのままの流れで、今回全部パソコンで描かせていただいてます。
編:ソフトは何を使っていますか?
北:フォトショップがほんのちょっと、あとはほとんどぺインターを使っています。
編:アナログと比べてどうですか?
北:慣れると一緒なんですよ。ぺインターは自分の描いた跡がとても出るから、ごまかしきかないし(笑)。
編:線は描いて取り込んでいるんですか? それとも直接?
北:イラストを印刷媒体に載せる場合は、チェックがあるので、線は紙に描いて取り込んでいます。
ただ、ホームページなどは、そんなに一生懸命描いても線が出ないんで、直にいきなり白い画像を呼んで、そこにぺインターで下描きからがーってやってます。
編:白井さんは、データで描かれないのですか?
白井:最近は、ネオジオポケットの方で描いてます。その前にも、サターン版の天草と斬紅郎の入ったベストコレクションのパッケージを
ぺインターで描いてたんですけど、あまりの重さに嫌になってしまいましたね(笑)。
ピンと線を引いて、時計マークが出て、ロロロロロー、ああー、ムカつくーっ。ダメです(笑)。
北:慣れたら、あの重さが気持ちいいんですよ(笑)。
白井:ただ、ポスターとか雑誌の広告に使う時に、描きかけの段階でデザイナーさんにお渡しして、
レイアウトなり何なりっていうのが先行で作れるんで、作業を効率よくするためにはいいですよね。
だから、ものによっては全くのデータでやってます。それでもやっぱり、紙に描いて、スキャニングしてますけど。
編:データには、データなりのよさがありますね。
白井:デジタルは、元データさえ保存しておけば、いろんなことが試せるんで、それで違うものが描けたりっていうのはあります。
でも、一度メモリの割り当てを間違って、描いて保存しようと思ったら、画面が真っ白になったことが…。
あの時は、私はもう会社に来ないぞーって思いました(笑)。
北:私はCDを聴きながら描いて、一枚聴き終ったら再起動かけるんですよ。それでほどよい(笑)。
白井:調子よく描いてると保存し忘れるんですよ。で、気に入らないから描き直そうって思うと、あれっ、色がついてないぞとかありますね(笑)。
北:どこまで戻ってるんですか(笑)。
白井:ただ、筆のタッチだけはどうしても出ないですよ。ソフトで書道のやつとかもあるんですが、それだと筆を画面にトンと置いた時に、ドットになってしまうんです。
それがどうしようもなく気に入らなくて…。やっぱり紙に筆がいいですね。
編:白井さんは、筆で一気に描き上げるとお聞きしましたが?
白井:ラフを何日もかかって何種類か描いて、その中からじゃあこれでいきましょうっていうことになりますよね。
ただ、それをもとに下描きしても、その時の筆の走りで全然雰囲気が変わっちゃったりするんですよ。
それでも、一週間二週間とかけていいものが、一点上がる時もあるんですけど、気分が乗ってると、下描きをせずに、
いきなり白い紙に向かって十分二十分で描けてしまうこともあるんです。紙に描くのは、真剣勝負ですね。
北:かっこいいですね。私なんか質より量ですから。私たちって、もしかして馬車馬とバクチ打ち?(笑)
白井:でも、北さんは、仕上げるのが早いよね。
北:一日に四十枚とか描きますけど、でも、私がやってる仕事はデジタルなんで、わりと手を抜いて早く進む方法とかありますし(笑)。
アスラの時はメインイラストだけだったんですけど、その前のサムライの時は、ゲームの2D絵の方を全部やらせていただきまして、
大変だったんですよ。すごく量が多くて、結局三百枚くらい描きました。
・キャラクターをデザインする
編:キャラクターデザインについてお伺いしたいのですが、それぞれのキャラクターは、どういった段階を経て完成していくのですか?
白井:デザイン課の方は、開発から出来上がってきたものを描くっていう感じですね。
北:私は開発課に籍を置いてるんですが、電話帳一冊くらいのラフを描いて、その中から、こいつはダメだ、こいつは使えるといった感じで、
同じキャラクターで何枚も描き直していきます。
白井:同じポーズで違うのって多いよね。
北:あの頃はパソコンとかうまく使えなかったんで、コピーを取って、顔だけ消して描き直したりしてました(笑)。
編:では、キャラクターは、開発の方で案を出してダメ出ししていくということですか?
北:そういう形式もあるんですけど、コンペテーション(設定協議。課題による設計作品の公募)にかけるというのに近いです。
何人かで思いつく限りの数を出して、その中からふるいにかけるといったパターンと、企画の方からパワータイプとか、素早いタイプとかいうお題をもらって
それに合わせて描くっていうのがあります。
そこからだんだん絞り込んでいって、じゃあこれにもうちょっと個性を足そうとか、これとこれを合体して一体にしちゃえとか、
そういう感じのふるいにかけて、最終的に皆様の目の前にいるキャラクターに作り上げます。
編:天草からハイパー64になった時にイラストレーターが代わったことは、何か意図があったんですか?
白井:キャラクターセレクトのところで、最初に2Dの絵があって、それがくるっとポリゴンになるじゃないですか。
その時に同じ絵のタイプからポリゴンになった方が、より違和感ないっていう演出面も大分左右してると思います。
あと、同じ絵が続いても同じものであってはならないし、同じシリーズであっても同じものであってはダメですよね。
イラストレーターが変わるにしても、変わるタイミングとしては一番いい変わり方だと思います。ゲーム自体も見た目も変わるのであれば、一新できるじゃないですか。
編:確かにユーザーとしても、違和感なく入っていけたように思います。
白井:アスラは、衣装も細かかったよね。
北:衣装デザインの方が細かくて、うわーこれを絵で描くのかーって。アスラのベルトとかたまりませんね。あれ描いたら、特別手当がほしいです(笑)。
白井:アスラ手当て(笑)。
北:あとリムルル手当てと半蔵手当て。
白井:よかった、途中で交替して(笑)。ありがとう。
北:ありがとうって…(笑)。
編:衣装が細かいというお話がありましたが、絵を描く際、資料などは見ますか?
白井:やはり舞台が舞台ですので、刀とかそういう小道具はなるべく実物を見るように、触るように、手に入れられるものは手に入れるようにしてます。
刀は、日光江戸村で(笑)。
北:白井さんは、何でそこまでするかなっていうくらい、やりますよね。
白井:それを側に置いて見ながら描くっていうことは、そんなにしないんですよ。特に筆で描いている時は、勢いが死んじゃうんで。
だから、触れる時に触って触って、刀は重くてこんな風になってるんだとか覚えておいて、それを思い浮かべながら描きます。
とにかく触っておかないと、描けないんですよ。一度、血糊の付いている刀を書くのに、台所の研磨剤か何かの白井液体を水で溶いて
刀にだらーっと付けて、一回キュッと振って飛ばしておいて、乾かして描いたこともあります。さすがに血糊は付けられませんから(笑)。
わらじは買って履きましたし、浅草の浅草寺の側にお祭用品を売っている店があるんですが、そこで話を聞いたりもしました。
あとは京都の太秦(映画村)ですね。あそこは衣装を着せてくれるんですよ。普段どうしても刀を差すってことがないですから、
刀を差してみて、どの部分に柄がくるのかとか、何気なく立った時に手をどこにやるのかとか、やっぱり経験して知っておいた方が、
絵を描く時にいいんです。まあ、半ば趣味なんですが(笑)。
編:映像を見るだけではダメですか?
白井:衣装を身に付けてると、服の全ての線がわかるんですよ。筆で描く時には、ほとんどの線を省略するんですけど、
省略するためには全ての線を知っておかないとダメというか、どの線を生かして、どの線を削るかっていうのが分からないといけないんです。
確かにビデオを見たら済むことなんですけど、やっぱりビデオじゃ全身は分からないんですよね。
だから、着れるものは着る、触れるものは触るようにしてます。
北:私も資料は結構見るんですけど、私の場合はどちらかというと分解図を資料にしていますね。骨格の本を開いて顔を描いたりとか、
着物は仕立ての本を開いて描いたりとか。
白井さんが体で覚える派だとしたら、私は分解派で、設計図見ながら絵を描くっていう形に近いんじゃないでしょうか。
靴とかも靴底の型を見ながら描いてますし。
ここがこういう風に縫い付けられてるんだって分かっていれば、想像で動かした時に、応用がききやすいんですよ。
まあ、開発してるとあまり外に出歩けないんで、こういう技術を身につけました(笑)。
・イラストレーターという仕事
編:これからお二人のような仕事を目指す皆さんに、ぜひアドバイスをお願いします。
白井:とにかく、いろんなことをして下さい。絵の仕事がしたいからって、絵だけ描いてちゃダメです。
机の前しか知らなくなりますから。最近では百貨店でも美術展や工芸展をやってますので、どんどん見に行って下さい。
そういうのを見ておくと、ものを描く時に、その部分取りっていうのができるんです。その部分取りするためのパーツ集めを、
絶対にしておいた方がいいと思います。
それから、企画とかストーリーを考えたい、絵にストーリー性を持たせたいというのであれば、いろんな年齢、いろんな職業の人と知り合うことですね。
本を見ることも大事ですけど、生きた話を聞く、生きた人に会うということもすごく大事なことです。
それが難しいというのであれば、好きなジャンルだけじゃなく、いろんな映画を観ることをお勧めします。
どこかの映画監督が、映画を一本見ることは、他人の人生を経験することだと言ってましたけど、
自分一人で生きていたら、自分一人だけの人生じゃないですか。
でも映画を観たり、人の話を聞いたりすれば、その人の人生の一部一部を取ってくることができるので、それを生かすことができるんですよ。
だから、何かを創る、クリエイティブな仕事をするのであれば、そういう引き出しはたくさん作っておいた方がいいと思います。
北:耳が痛いですね(笑)。私から言えることは、マンウォッチング(人間観察)をマメにして下さいということです。
電車の中でも、バスの中でも、道を歩いててもいいですから、目に入った人をよく観察してみる。ファッションもそうですけど、
振る舞い、仕草、そういうのってその人その人で全然違うじゃないですか。
絵に描く必要はないんですけど、見ていると描けるようになります。
電車の中でそういうのを睨んでいると、結構怪しいんですけどね(笑)。あとは、苦手な角度をなくすということです。
手とか足とか、わりと最近って絵の上手な方が多いんですけど、顔だけっていう人が結構多いんですよ。顔も真下から見た時、
上から見た時と360度全部かけるっていう人はそんなにいないんで、それが描けるように頑張ると、画力は確実についてきます。
私は、ずっとドッターでやっていたんですが、アクションを描いてると、あらゆる角度から絵を描けるようにならないと話にならないんですよ。
ドットなのでたかが知れてるんですけど、ものの構成を自分で把握してないと、手のつき方が変とか、そういうことになってしまうんで…。
自分の体がありますから、鏡に映して練習して、いろいろ描けるようにしておくと、すごい自分の武器になるんじゃないかなあと思います。
白井:痛いお話でした(笑)。
編:最後に、お二人の近況を教えて下さい。
白井:SSC会員の継続用のカットを描いてます。他には、フィギュアとかグッズ関係のチェックをしてます。
編:白井さんは、今はサムライに関しては?
白井:ネオジオポケットぐらいですね。あとは、本当に久しぶりにこの画集のために描いたんですが、顔忘れてて(笑)。
北:あるんですよね。違う仕事をしていて、そっちにチャンネルが合ってると、戻らないっていうの。
白井:最初にずーっとサムライを描いてて、「リアルアバウト餓狼伝説2」を描いた時に、リックの顔が覇王丸だって言われて、
しばらく悩んだんですよ。でも、久しぶりに画集で描いたら、今度は覇王丸がリックだって言われました(笑)。
北:私は、この間ホームページ関係をやらせてもらいまして、侍組というのを立ち上げた時に関わらせてもらいました。
あとは白井さんと同じで、この画集のお仕事です。
編:読者の方々にメッセージをお願いします。
白井:私に関して言えば、反面教師だと思っていただければいいかなと(笑)。
これも一つの表現の方法だと思って下さい。で、この中から俺はこんな風にしたくないなあとか、何か一つでも引っかかるものがあってくれると
嬉しいです。では、北さん、締めをお願いします。
北:え、私ですか? お買い上げどうもありがとうございます。
白井:いきなりコテコテの商売人になってる(笑)。
北:私はイラストレーター暦は本当に小指の先程しかないんで、何も偉そうなことは言えないんですが、こういう世界を目指す方、
私みたいにちょっと変な道からイラストレーターの世界に足を踏み入れているということを知って、まっしぐらにイラストレーターを目指さず、
寄り道してでもいいですから、それからのんびりと来て下さい。
編:ありがとうございました。