窓の外で雷鳴が轟く。

稲光に映し出されたのは、紅毛の小柄な青年。

片方の目は紅毛の下に隠れ、端正なその顔には言い知れぬ邪悪な表情が浮かんでいる。

彼は一人の子供、男の子を片手で持ち上げ、

その顔に向けてナイフを突きつけている。

雷鳴に照らし出され、ナイフの刃が光る。

「なるほどな。しかし貴様の隠し事はそれだけではあるまい」

北斗七星の戦士の一人であるデルタ星メグレスの神闘士、アルベリッヒは言った。

「全て吐いた方が賢いぞ。神闘衣修復者にして沈黙の一族の長、グリーズよ」

そう話しかけられた、年の頃三十過ぎと思しき女は唇を噛みアルベリッヒを睨みつけている。

「この獅子身中の虫め!」

女は怒鳴りつけた。

「お前はラグナロクを引き起こす悪神ロキと違わぬ、アスガルドの災いだ!」

アルベリッヒは女の罵倒に冷たく笑みを浮かべた。

「今現在貴様の息子の命はこの俺が握っている、という事実をよぉく弁えろ」

ナイフの切っ先が少年の頬を軽くつつく。

「跡継ぎがいなくなってもいいというのか?」

女が黙り込んだ。

「全て話すのだ。貴様ら一族がこれまで隠してきた秘密を、このアルベリッヒにな」




女から全ての秘密を聞き出したアルベリッヒの脳裏に、閃いたのは一つの言葉。

「……なるほど……そういうことだったのか」

彼の先祖である、アルベリッヒ13世が"抹消"していたと思しき、その言葉の意味。

そしてかつて、父であるアルベリッヒ18世に聞かされた話。

今すべてが一つに繋がった。

さらに"同胞"であったあの者に感じた微かな違和感、その理由がこんな形で明らかになろうとは。

アルベリッヒは笑いを抑えられない。

まさかこれほど身近に、これほど利用し甲斐がある手駒が転がっていたとはな。

地上を支配するという望みのために、奴は非常に使える存在となることだろう。



アルベリッヒは目の前の女、グリーズを見た。

「有益な情報提供を感謝するぞ、神闘衣修復者よ」

握っていたナイフを前方に、グリーズに向け突きつける。

グリーズの目に緊張が走る。

「貴様らは用済みだ。今後は"沈黙の一族"らしく――未来永劫、その口を閉ざすがいい!」

紅毛の青年の端正な顔を、邪悪な笑みが覆い尽くした。




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