赤ヒゲの兵士。



この人について……というか、ぶっちゃけ誰も覚えてなさそうな脇役でわざわざ1ページ作るのは私くらいだろうな〜。と思わせておいて、

結局、このサイトではよくある話題にスイッチしたりします。




聖闘士星矢・映画版第二作『神々の熱き戦い』は、東シベリアから始まります。

複数の兵士に追われ、殺されそうになる一人の男。

兵士たちを追い払い男を救ったのは、キグナスの聖闘士氷河でした。




氷河に救われた、赤毛と赤ヒゲを持つ男は、「アスガルド……ワルハラ宮……神々の戦いが始まる……」と氷河に告げて意識を失います。






媒体によっては、この"赤ヒゲの兵士"はここで死亡したと書かれたものもあったように記憶していますが、

本編ではこの後も、ちょいちょい出番があったりします。


氷河と"赤ヒゲの兵士"のシーンの後、場面は一度日本の城戸邸に移り、続いて映し出されるのは、アスガルドの何処かで倒れて意識を失っている氷河。

北欧神話『ギュルヴィたぶらかし』から取られたラグナロク(世界の終末)の前兆・「フィンブルヴェト(大いなる冬)」を謳う一節1が、

作中に登場するフレイの妹フレアを担当する山野さと子さんのナレーションで流れ、

アスガルドの風景にオーディーン像が重なり、映画は本編に入っていきます。




冒頭で倒れていた氷河はその後、アスガルドの教主ドルバルに洗脳され、神闘士ミッドガルドに仕立て上げられていた事が判明しますが、

当然冒頭部分では氷河の仲間である主人公・ペガサス星矢たちや女神(アテナ)・城戸沙織はその事実を知らず、消息を絶った氷河を探すためアスガルドに赴き

ワルハラ宮殿にて教主ドルバルと会談・その夜はドルバルの配下の一人であるフレイとその妹フレアの館に宿泊します。

そこに氷河の聖衣のマスクを持って現れたのが"赤ヒゲの兵士"。






包帯を巻いてるし、兜には損壊の跡が見えるので、冒頭氷河が助けた男と同一人物と思われます。

この時ワルハラ宮ではフレイが教主ドルバルに対し、教主の側近ロキが地上支配の野望を持っていることを告げその制止を求めますが、ドルバルのために投獄されてしまい

フレイの館に留まる沙織の許には馬車の迎えがやって来ます。





沙織「氷河が、見つかったのですか?」

赤ヒゲの兵士「はい、すぐワルハラ宮殿へお越し下さいとのことです」

アンドロメダ瞬「沙織さん、行きましょう!」



ワルハラ宮に向かい、実は彼こそが地上支配の野望を持っていることを明かしたドルバルと対峙した沙織はその技"オーディーン・シールド"によって拘束されてしまい、

星矢たちは沙織を救出に向かい、途中で氷河が洗脳されていたことも明らかになるのですが。



赤ヒゲの兵士の立場がさっぱりわからん……。



冒頭、ワルハラ宮に仕えるアスガルドの兵士に追われていた→「神々の戦いが始まる」=聖域とアスガルドが激突する、という台詞からして

(同じく、聖域とアスガルドの神々の戦い、という台詞をフレイがドルバルに言っています)

アスガルド・その教主ドルバルが聖域侵攻を企んでいることは知っていたように思える→それなら殺されかけたのも納得できるのですが……。



再登場してからは、関わったというか会話したキャラクターがほぼ沙織だけ=氷河の消息を知らせるためだけの出番とはいえ


ちゃっかりワルハラ宮に復帰してるし

(画像リピート)





赤ヒゲの兵士と一緒にやって来た2人……沙織と瞬が乗ることになる馬車の御者と、馬車の扉を開けて待ってる付き添いはワルハラ宮兵士です、どこからどう見ても(笑)


つまり、一度は殺されかけていたにも関わらず何故かしれっとワルハラ宮サイドに戻ってるということは、

マスクを見つけた事はともかく氷河が見つかった、はドルバルに命じられ嘘をついた可能性もあるんですが……。

結局はわかりません、の一言につきますね。

赤ヒゲの兵士も嘘を教えられ、それと知らぬまま沙織に告げに行っただけ、という可能性も捨てきれませんので。



『神々の熱き戦い』は、当初は上映時間を長く取る予定であったのが、東映まんがまつりの通常上映時間である45分に収めざるを得なくなったらしい、と聞いた事があります。

真偽は定かではありませんが、当初は本人のデザインもされていた本物のミッドガルドの出番はカットに

(絵コンテ段階ではドルバルに幽閉されていたそうです。なお本物のミッドガルドのデザインは、TV版の神闘士・ベータ星メラクのハーゲンに流用されました)、

フレイの妹フレアもラストには「お兄様のために祈ってください」という台詞があったらしいと昔聞いたことがあるのですが

それも(おそらくは他の出番も)カットされた結果、印象が薄いというか存在意義がよくわからないキャラに。

それならそれ以上に脇役である赤ヒゲの兵士の行動原理なんて、完全スルーされてもしょうがないんですけどね(^^;)



けれども、出番に注目してみると裏に何かあるのかないのかは不明でも、氷河に助けられて以降は一応彼を見つけるために動き、その仲間に連絡を取る、

まぁ自分を助けてくれた氷河のために活動していた、と見て間違いはないと思います。




ひとつ気になるのは、この名前も終始不明で設定書でも"赤ヒゲの兵士"としか書かれていない脇役キャラクターである彼が、

"赤ヒゲ"という特徴の持ち主であることです。




北欧神話を、舞台・敵キャラクター・ゲストの味方キャラクターのモチーフにしている映画『神々の熱き戦い』。

北欧神話で"赤ヒゲ"と言えば、オーディンの息子で神々最強の雷神とされる、トールの際立った特徴であります。




雷神トールを"直接の"モチーフとしたと思しきキャラクターは『神々の熱き戦い』には登場せず、

時期的には『神々〜』公開後にTVシリーズで放送されたオリジナルストーリー『黄金の指輪編』(現在では「アスガルド編」と呼称されることが多い)の七人の神闘士の一人として

ガンマ星フェクダのトールが登場します。(名前・巨体・ヒゲを生やしたルックス・ミョルニルハンマーという武器を使う点が雷神トールを元にしていると思われる)






最初に登場しペガサス星矢と戦った神闘士で、最初に倒されて出番が終わったから印象が薄い、という人もいるようですが

出番全てを見てみると、赤ヒゲの兵士といわば相似形になっているような……? と私は思いました。




簡単に言うと、フェクダのトールは赤ヒゲの兵士と同様、キグナス氷河・アテナ(城戸沙織)・ワルハラ宮の兵士たち、これらすべてに関わりを持ちそれが描写された、

アスガルド(神闘士)側ではたった一人の人物であります。

つまり、関わったキャラクターと雷神トールをモチーフとしたらしい要素を持つキャラクターである点が共通している、ということです。


まとめてみるとこんな感じです。


関わったキャラ  赤ヒゲの兵士
(神々の熱き戦い) 
ガンマ星フェクダのトール
(TV版黄金の指輪編(アスガルド編)) 
ワルハラ宮兵士たち   冒頭で襲われ殺されかける。  回想シーンで追われ殺されかけるが、
武器(弓矢)を持った援軍が到着するまでは圧倒していた。
彼を救ったのはアスガルドを治めるポラリスのヒルダである。
(アニメ77話) 
キグナス氷河  兵士たちに殺されかけたところを救われる。  ワルハラ宮へ潜入しようとして
(兵士たちに)捕らえられた氷河を拷問にかける。 
(アニメ81話)
アテナ(城戸沙織) 氷河のマスクを見つけた事・"氷河が見つかった"事を報告。  邪悪と化したヒルダに代わって祈りを捧げ出したアテナに対し、
ミョルニルハンマーを投げつけるが跳ね返される。
(アニメ75話) 




ちなみに、ワルハラ宮の兵士たちと直接拳を交えた聖闘士は氷河だけ、というのも『神々〜』とアスガルド編(アニメ75話)で共通していますね。

(アスガルド編開始と共に一新されたオープニング主題歌『聖闘士神話(ソルジャードリーム)』では、

主人公ペガサス星矢がワルハラ宮兵士たちを拳で吹き飛ばすカットがありますが、

続く(マントを纏った)アルファ星ドゥベのジークフリートと対決するオーディーンローブを纏った星矢同様、単なるイメージシーンに留まっています)

星矢の映画全四作中、TV版本編に設定が持ち込まれたというか流用されたのは『神々の熱き戦い』のみなので、構成上の共通要素として持ち込まれたのではないかと思われます。




北斗七星の神闘士たちの約半数(フェクダのトール・イプシロン星アリオトのフェンリル・メラクのハーゲン・デルタ星メグレスのアルベリッヒ)が、

『神々〜』の神闘士たちのデザインや技をアレンジしているという事実は過去既に指摘されていましたが(『聖闘士星矢アニメスペシャル2』アスガルド編紹介記事』)、

設定・キャラクター・小道具以外に、構成にも映画版を流用している箇所があります。

顕著なのが冒頭から・もしくは比較的冒頭から登場している赤ヒゲの兵士とフェクダのトールですが、

北欧編(映画・TV版ともに)のラストボスはオーディーンの地上代行者たち。(どちらもオーディーン=オーディンの子供をアレンジした名を持つ存在です)

『神々〜』で、自らの意思で地上支配を目論んでいたドルバルは、最期には射手座(サジタリウス)の黄金聖衣をまとった星矢が放った矢に射抜かれ、

崩れ落ちてきたオーディーンの巨像が持つ剣の下敷きになって落命。

黄金の指輪編(アスガルド編)のポラリス(北極星)のヒルダはニーベルンゲン・リングを嵌められた事で海皇ポセイドンの傀儡となり、

ドルバル同様星矢たち5人の青銅聖闘士と戦いますが

オーディーンローブを纏い伝説の剣バルムングを振るう星矢によって、ニーベルンゲン・リングを断ち切られた事で解放されます。

言うなれば、"邪悪と化したオーディーンの地上代行者"は、どちらもオーディーンの剣によって滅んでいる

と見ることもできるわけです。




また映画版で、ドルバルに拘束された沙織を解放する重大な役目を持つのは、ドルバルの部下でありながら地上の平和を願っていたフレイですが

TV版では神闘士のリーダー・ヒルダの側近であり、立場的には映画版のロキと同じであるドゥベのジークフリートが真実を知り、

現れたポセイドンの配下である海魔女(セイレーン)のソレントと戦い散っていくシーンが、フレイに相当するのではないかと思われます。

ジークフリートがソレントを道連れに昇天するシーンの前後には、映画版ではフレイがアテナを解放するためオーディーン像を昇るシーンで使用されたBGMが使われています。

(ちなみに、映画版のロキとドルバルはそれぞれオーディーンの名を冠した技を使用しますが、TV版でオーディーンの名を冠した技を持つのはジークフリートただ一人です。)




最後に、ちょっと気になったシーンについて。

     


冒頭の城戸邸のシーンより。

星矢が窓ガラスに落書きした文字は、ちゃんと北欧の言葉での「アスガルド」なんですね。

意外と博識だなぁ星矢(失礼)。











    


註


1「夏が来ることなく、三度冬が続き、世界が恐怖の戦争に突入する。

その時人々は、兄弟と雖も殺し合い、世界はもがき苦しみ、他人を思いやる者など誰もいない、狼の世となる」

いわゆるラグナロクについて謳われる北欧神話は『巫女の予言』が有名ですが、『巫女の予言』にフィンブルヴェト(大いなる冬)を表す記述は存在せず、

『散文のエッダ』または『スノリのエッダ』(『ギュルヴィたぶらかし』はその第一部)に同内容の文章が見えます。

「フィンブルヴェトと呼ばれる冬が、初めて訪れる。(中略)冬が引き続いて三度もやってくるが、夏はその間に一度もこない。

だが、次の三冬がやってきて、全世界が激しい戦火に包まれる前に、

兄弟たちは貪欲から殺し合い、誰も人殺しや姦通を父子の見さかいなしにやる」(『エッダ―古代北欧歌謡集』谷口幸男訳 新潮社版 P275より)

なお「他人を思いやる者など誰もいない、狼の世となる」の部分は『巫女の予言』にも存在。

このナレーションは、二つの北欧神話の記述を合成しているわけですね。




2 「アスガルドでオーディーンを守る勇士のこと」と、フレイの妹フレアに紹介される映画版の神闘士たちは、

教主の側近ロキ(名前は北欧神話のトリックスター・ロキから)以外の3名はそれぞれウル・ルング・ミッドガルド(映画版では中身は氷河)ですが、

名前の元ネタは狩りとスキーの神とされるウル・巨人族最強と言われた勇者フルングニル・ミッドガルドサーペント=ヨルムンガンド。

全て雷神トールに何らかのかかわりを持つ存在です。(ウルはトールの継子・フルングニルは決闘の相手・ミッドガルドサーペントはラグナロクでも戦う宿敵)

個人的には、雷神トールがズバリ元ネタのキャラクターとして(TV版で)フェクダのトールを出すために、代わって雷神トールに関わりのある元ネタを持ってきたのでは?

と考えています。




3 このグループ(沙織、氷河、ワルハラ宮兵士)に関りを持ったキャラと言えば、正確にいうとヒルダの妹フレアも該当していたりします。

氷河とアテナに助けを求める存在・味方的立ち位置になるという点で、赤ヒゲの兵士(の役割)を引き継いでいると言えるのは実はフレアかもしれません(笑)

トールはあくまでヒルダに仕える神闘士であり、アテナ・聖闘士サイドからすれば終始敵の立ち位置ですから。

ついでに、『神々〜』のドルバルも沙織=敵として相対、氷河=洗脳する、ワルハラ宮兵士=主君と配下の間柄である、という関りはありますね。

後者2つに直接の描写はありませんが。

"赤ヒゲの兵士"の、アテナ・聖闘士サイドへの協力者としての役割はフレアに、ワルハラ宮兵士たちとの関りはトールに、ということになるのかもしれません。




4 トールは3のように、立ち位置としては最後までアテナと星矢たちの敵ですが、

神闘士唯一、ヒルダの異変に気付きながらも最後までヒルダのために戦ったというキャラなので、選ぶ道が違えば星矢たちの味方サイドに立った可能性はあります。

第77話『巨星の涙! ヒルダのために死す』のシナリオ(東映製作)では、本編でカットされたトールの末期の台詞として

「だがペガサスよ、お前たちの想像以上にその道は辛く険しいぞ……」というものがありました。




5 ドルバルの名は、オーディンの息子で麗しき光の神とされるバルドルのアナグラム。

ヒルダの名は、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』においてオーディンに相当するヴォータンの娘・ブリュンヒルデを簡単に縮めたものと推測されます。

なお『エッダ』(詩のエッダ・及び散文のエッダ第二部『詩語法』)において、ブリュンヒルデに相当するブリュンヒルドは、数か所自らヒルドと名乗っています。




6 ここで登場する海闘士マリーナ(ポセイドンの部下)がソレントなのは、原作の星矢(十二宮編の次章ポセイドン編)の方で最初に登場した海闘士がソレントなので、

それを継いでいるためと思われます。

(なお、原作のソレントが牡牛座の聖闘士アルデバランを倒した行為はアニメのアスガルド編では最初に登場した神闘士・ミザルのシドに引き継がれました)

これはこじつけなのですが、ニーベルンゲン・リングの元ネタであるニーベルングの指環は、ライン川の底にある黄金から作られた指環であり、

川は海に通じるものであり、またライン川にはギリシャ神話のセイレーンに似た、歌で船乗りを惑わすとされるローレライの有名な伝説があるのが暗示的かと思います。




7 ロキの技はオーディーン・テンペスト、ドルバルの技はオーディーン・シールド、ジークフリートの技はオーディーン・ソード。

なおメグレスのアルベリッヒの技の一つにアメジスト・シールドがあり一部ドルバルと共通していますが、

技の性質からしてshield(盾)の意味ではなく、sealed(封印)を意味しているのではないかと思われます。