無限示


オープニング

二人目

八人目

十一人目

エンディング


オープニング

離天京に怪奇な噂が流れる。背中に蝶の刺青を入れている男の噂……。夜な夜な街を徘徊し、突発的殺戮行為を繰り返しては、

人々を恐怖のどん底におとしめている。

その男の名は『無限示』といった。知能は人並みにある様だが、精神は破綻してしまった狂人である。

幼少の頃から、美に対して異常な程コンプレックスをもち、その特徴的な執着として蝶がある。

襲われ奇跡的に助かった侠客の話では、猛り暴れ狂う様は、さしずめ仁王のようであり、また、恐ろしいぐらいに打たれ強く

斬れども斬れども向かってきたと云う。

今宵も、無限示の徘徊が始まる……。





対花房迅衛門(二人目)

迅衛門「なんとも……薄気味悪い夜じゃのう……。特にこの街は不気味すぎて、化け物が出てもおかしくない所じゃわい……」

無限示「…………」

迅衛門「はふっ!! …………。何か……聞こえたぞっ?」

無限示「…………」

迅衛門「や、や、や、やっぱり何か聞こえた?! ぬ、ぬ、ぬ、何者じゃっ!!」

無限示「キィーーーエーーー!!」

迅衛門「ごおあ~~~っっっ!! なななっ何だお主は!」

無限示「わが主よっ! この醜き者に死のくさびをっ!!」

迅衛門「何なんじゃ、お主はっ!」

無限示「闇よっ!! 我を照らせっ!! 慈悲深き我の道を照らせっ!!」

迅衛門「だからっ!! 何なんじゃぁお主はっ!!」

無限示「主よ、その問いの答えは皆無だっ!!」

迅衛門「どぁからぁ~、何者じゃと聞いておろうがっ!!」





対吉野凜花(八人目)

凜花「……ゴメンネ、鉄之介。ごはんまだなのに飛び出して来て」

鉄之介「ヂッヂッ」

凜花「だってひどいんだ、銃士浪の奴!!

『悲しいなら笑え。それで周りは救われる』ですって!! あんまり悔しいから思いっきり大根ぶつけてやったよ!!」

鉄之介「ヂヂッ!!」

凜花「おまえは優しい子だね……ありがと」

鉄之介「ヂュ~~ゥ」

凜花「……ん? 何の香り? 風に乗って良い香り。……花?」

鉄之介「チチチチッ」

凜花「どうした、鉄之介。おまえ、震えてるのかい?」

鉄之介「ヂッヂッ!!」

無限示「娘よ。汝は裏切りという苦痛に苛まれた小さき花だ」

凜花「イッイキナリ、何なんだいあんた!!」

無限示「心を乱すな。それは死を意味する。孤独を受け入れよ!!」

凜花「何なんだ、あんた。それ以上、訳の分かんない事いうと斬るよ」

無限示「オーゥ。もう少しで闇に育ったつぼみが花咲かせたものを」

凜花「やめろ!! やめてくれ!!」

無限示「枯れるならば、仕方あるまい。その血潮で美しい花を咲かせてくれ!」

凜花「クッ狂ってる……」





対榊銃士浪(十一人目)


銃士浪「で、誰が花だって?」

サヤ「花じゃないわ、蝶よ蝶」

銃士浪「蝶ってあの飛んでるヤツか?」

サヤ「そうよ、あんな恐ろしい男、初めて見たわ」

銃士浪「へぇ、そんなたくましい男がいい寄ってきたのか。イテッ!!」

サヤ「冗談いわないで!! いい寄ってくるなり斬り殺されたら、たまんないわ」

銃士浪「ハハハ、そんなもんかね。…………。で、斬られたのか?」

サヤ「ええ少しね。私は大したことないわ。大事な御肌に少し傷がついたぐらい……」

『グスン……』

サヤ「でも凜ちゃんは、相当の深手ね」

銃士浪「まさか凜花までとは。オレの周りの女が、2人も同じ男に斬られるとは。その男狂ってるぜ」

サヤ「ヤツは普通じゃないわ。それにとてつもないぐらいタフよ」

銃士浪「ああ、安心しな。そいつの姿を見かけたら……容赦なく逃げさせてもらうよ」

サヤ「……最低ね」

銃士浪「……おかげさまで」

サヤ「あなたね!!! …………。もう、何故そんな言い方しかできないの?」

銃士浪「男だからさ」

サヤ「はぁ?」

銃士浪「不器用に生きてるヤツほどカッコいいんだよ、男は」

サヤ「もてない男の常套句ね」

銃士浪「そうでもない様だぜ」

サヤ「……?」

銃士浪「男には好かれてる様だ」

サヤ「アッ! アイツよ、銃士浪!」

銃士浪「ああ。傷ついた女は、たくましい男の夢でも見てな」

『パンッ!!』

銃士浪「…………。イテェ、殴る事ないだろう」

サヤ「殴りやすい顔なのよ。……バカ」

銃士浪「……凜花を頼む」

無限示「美しき生け贄が、二匹この辺に来たはず。知ってるな」

銃士浪「悪いがオレの趣味は男じゃないんだ」

無限示「…………」

銃士浪「まさか、本気か?」

無限示「キィーーーエーーッ!!」





エンディング

無限示「僕は、何故生まれた」

???『何だ、こいつ。薄汚ぇ~な……』

???『あんたなんて生まれてこなけりゃ、良かったんだよ』

???『何て気味悪い子だい……』

???『こんな子に構っちゃダメ!! …………』

???『こいつ呪われてるらしいぜ……』

???『村に災いが起こるぞ……』

???『殺してしまえ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、ころ……』

無限示『僕は何もしていない。なのに、何故? …………。いやだ、殺さないでくれ、助けて……。…………』

(回想の中、花畑にいる可愛らしい少女)

少女『あなた、この辺の子?』

無限示『…………』

少女『私、お蝶って言うの』

無限示『…………』

お蝶『生まれた時から、目が見えないの……』

無限示『僕の名前は……』

お蝶『これで、お友達ね』

無限示『……ト・モ・ダ・チ? …………』


お蝶『ねぇ聞いて。私、目が見えるようになるの。父上様が良い蘭学者のお医者様を見つけて下さったのよ。

もうすぐ、あなたの顔が見れるのよ』


???『あんたなんて生まれてこなけりゃ、良かったんだよ』

???『何て気味悪い子だい……』

???『生まれてこなけりゃ良かった……』

???『呪われた子……』

???『醜い子……殺してしまえ……』

(少年時代の無限示に首を絞められ、悲しい表情をしているお蝶)

お蝶『……何故……何故……。もうすぐ……あなたの顔……見れるのに……』

無限示『…………もう一度……生まれ……変われたら』

(花園の中立つ無限示。周囲に群れ舞飛ぶ蝶たち)

無限示「オォォォォォゥ……。美しい……。蝶が……蝶が、飛んでいる……。死はようやく、我を受け入れた」

(花園に倒れ込む無限示)

『ドサッ!!』

無限示「蝶はイイ。どんなに醜く生まれたとしても美しく生まれ変わる。……これでオレも生まれ変われる。オレも……蝶に……なれる……。

……………………。…………。……。……」

(蝶を握り潰す無限示の手)

『グシャ!!』

(落ちてくる翅と鱗粉)





    

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