魔界に関する一考察〜壊帝ユガ編〜



壊帝ユガ

ポリゴン侍魂・アスラ斬魔伝におけるCPU専用ラストボス。

ネオジオポケット版サムライスピリッツ!2では条件を満たせば使用キャラに。

携帯配信恋愛ゲーム・DAY OF MEMORIES〜大江戸恋愛絵巻〜では、
魔界の門を開こうとする謎の人物として登場。




サムスピ登場キャラクターは代々、登場と共に詳細なプロフィールが提示されてきましたが、

例外的に殆ど不明なのが壊帝ユガです。

まずは、プロフィールと言いますか設定やゲーム上における特徴から、ユガについて推測できることを整理してみましょう。

(ポリサム・アスラ双方を参照しています)


壊帝ユガ
出身 魔界
特徴 ・「人形師」として人間界に出没する
・「秘術」の使い手(スタッフによると「遺伝子操作」に近いもの)
・その延長として、木偶♂と♀を作成・またミヅキの魔獣アンブロジァを作成したことになっている

秘術「二子反面」により反面のアスラを誕生させる
外見上の特徴(設定書より)
全体 ・人ではないものが人の形をとっているような違和感を放っています。

・非現実的な生臭さを持つキャラクターです。
・常人の黒目の部分が金で白目の部分が黒です。爬虫類系の瞳孔を持っています。
・掌部分に刺青があります。(右手に閉じた瞼、左手に開かれた目)

爪は自在に伸ばしたり縮めたりできます。
武器 爪が自在に伸ばせるとのことで、これも武器の1つでは。

その他衝撃波を放ち、念動力と思われる力で相手を遠隔操作で投げたりする。

アスラ斬魔伝の第二形態(女)では、腕そのものを鎌や弓といった様々な武器に変化させて攻撃してくる。
特技 時間を停止させることができる (秘奥義・婆羅門(バラモン))
目的
ポリサム 「半陽の男」と「半陰の女」に「無垢な胎児」を生させ、「三位一体の合一」を形成し、「魔界にも地上界にも君臨する」暗黒神を誕生させる。
アスラ 「半陽の男」と「半陰の女」を使った現世と魔界の合一。暗黒神復活の舞台となる、「完全なる理想郷の建設」。



赤字は『侍魂〜サムライスピリッツ〜完全攻略マニュアル』(芸文社・ネオジオフリーク編集部責任編集 1998年)による

下記の引用も準じる)




資料から判断すれば、以上のような所でしょうか。

なお、ユガという名の意味ですが訳す場合には「劫」となり、これは「極めて永い時間」を意味します。

ユガという言葉自体は、ヒンドゥー教の世界観でいう世界周期のこと。※1

スタッフコメントによると、壊帝ユガは”侍シリーズの最強にして最後のボスキャラ”という位置付けになるそうで、

設定的には真サムライスピリッツのボス・羅将神ミヅキとの対比というか、ミヅキを引き合いに語られているエピソードが

幾つか存在しています。

まずは色の武器・陰魔輪と陽神輪についてはこのように語られています。

「魔界の中心のある所に永い間突き刺さっていたのを、ユガの手によって抜き取られ、

色に与えられました(何体もの魔物がその刀を抜こうとしたが、並みの魔物では刀の発する結界によって近づくことすらできず、

あの羅将神ミヅキでさえつかめはしたものの、引き抜くことはできなかったという)。」



続いて、ユガの側近である木偶♂・木偶♀のキャラクター紹介より抜粋した一文です。

「ミヅキとともに闘っていた獣も(木偶たちと)同じようにユガによって造られたものであり、覇王丸との闘いののち、(遺伝子を含む肉片が)

ユガに届けられた。」


(カッコ内管理人)

色の武器に関するエピソードでは、”ミヅキの出来なかったことを成し遂げた”という点でミヅキよりも力(魔力?)が

上であるというポイントを印象付け、魔獣に関する言及では、ミヅキの強さの一部にユガが関っていたという既成事実を

造ろうとしていた印象です。まぁよくある後付け設定というか、黄金聖闘士をもしのぐとかベジータをもしのぐとかそういうのと

レベルとしては同じで、上手く使わないとファンの反感を買うだけに終わるという諸刃の剣……。

それは置いておくとして、上記のエピソードだけでは

ユガとミヅキの間にあった関係性というのがいまいち汲み取れません。

ユガがある面においてはミヅキよりも力を持っていた、またはミヅキに力を貸したような描写にはとれますが、

力関係において両者のどちらが上か、というかそもそも上下関係のようなものが存在したのかどうか、

その辺りについては何ら言及されていないため判断のしようがない、というのが現状ですね。



さて、壊帝ユガの設定において大きなウェイトを占めるのが、「人形師」であることだと思われます。

ポリサムに接触した当時、管理人はこの「人形師」という設定がどういう意味を持つのかがまったく理解できませんでした。

人形師としてのユガについては、

「人形師として人間の世界に来る時は特別な目的がある時のみであり、目的もなしに人形劇をしているわけではありません。」

とスタッフがQ&Aで語っています。

基本設定によると、ユガは”遺伝子操作に近い”秘術によって操り人形とした優秀な人間たちの前に現れた時に

人形劇を行い、それによって彼らに施した封印を解く……ということになっていたようです。

人形劇というものの持つ宗教的な意義を考えてみれば、

まず人形とは本来、ある種の霊力=神が降りてくるための形代であり、

その神霊が降りてくると動き出す(心霊が宿った事を表すために人形師=シャーマンが人形を動かす)とされていました。

すなわち元来は人形芝居とは神事であり、そして人形師は神事を執り行う呪術師であったわけです。

ユガの人形師という設定は、”人間を人形化して操り、禍々しき呪術を行うもの”という位置付けのためにあるとは言えないでしょうか。

つまり、ユガはアンブロジァという魔界の神を実体化・現出させようとする”呪術師”であるという解釈を成り立たせる事は可能かと思われます。

なお余談ですが人形研究家には、人形の起源を(ユガの背景モチーフのひとつである)インドと考えている人もいるそうです

(証明された説ではないようです)。※2



最後にユガとアンブロジァの関係について、情報が乏しいながらも考察してみます。

アンブロジァが”魔界の神”、あるいは魔界そのものの表象であるかのような存在であることは

真サムライスピリッツの設定において定義されていました。

そしてこれまで、魔界に関ったサムライスピリッツのボスたち(天草四郎時貞・羅将神ミヅキ)は共に

そもそも「人間の怨念」が「魔界と手を結び」力を得たという経緯がありましたが

(天草は島原の乱首謀者の怨霊、ミヅキは捨てられた赤子の怨念)、

ユガに関してはその辺りの事情……アンブロジァに忠誠を誓った経緯……が全く不明瞭です。

また、アンブロジァとの関わりについても

天草は魔界で”アンブロジァ”と名乗るものから誘いを受け※3

ミヅキは自らアンブロジァを呼び出し契約を結んだ事が明らかになっていますが、

ユガとアンブロジァの関係を示唆する情報は全くありません。

ただ、ポリゴンのサムライスピリッツシリーズにおいては

2D時代の四作とはまた違った世界観やイメージを作り出そうと尽力した後がそこかしこに見られ、

ボスのユガに関しても上記の設定における禍々しい風体からして

天草・ミヅキといった”もとは人間”であった存在と一線を画した完全な魔界の出身、つまり生粋の魔物であると

捉える事ができるのではないでしょうか。

または、アンブロジァに関するQ&Aの最後の一文……

「その存在を確認したものはなく、したがってユガ自身がアンブロジァそのものなのか、

分身なのか、または自分自身がアンブロジァになろうとしているのかは不明です。」


ここからすれば、ユガがアンブロジァに仕える者ではなく、

分身もしくは”魔界の神”となるべく野望を抱くものであるという解釈も成り立ちます。

実際に「アスラ斬魔伝」におけるユガの登場ボイスでは(ゲーム中では聞いた事がないように思うのですが、

CDにはちゃんと収録されていますね。)


登場:我は神なり。闇へと生じさせ、顕現するものなり。



という風に、自ら神を名乗っています。

ユガについての設定や魔界での位置付けを仄めかす言及は、

ポリ1・アスラ斬魔伝、そしてサムライスピリッツ新章蒼紅の刃の三作全てに渡ってかなり変質していますので、

その最大の要因と思われるキャラ・アスラと絡めて次回考察していきたいと思います。





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(※1)世界は生成・生滅を繰り返すとして、この間をクリタ・ユガ、トレーター・ユガ、ドヴァ―パラ・ユガ、カリ・ユガ
(仏教では成劫・住劫・壊劫(えごう)・空劫と呼称)の四期に分ける。 
参考:『インド神話伝説辞典』菅沼晃編  東京堂出版・初版1985年より


(※2)ドイツの人形研究家リヒャルト・ピッシェルによる。参考文献:『アジアの人形芸』諏訪春雄編 勉誠出版


(※3)最近になって思い当たったのですが、アンブロジァが象徴的な神ならば天草に語りかけるというのは少々おかしなことになるわけで、これはアンブロジァの名を騙っただけの別種の魔物……と、考えられなくもない気がします。