魔界に関する一考察〜アスラ編〜

※引用文は以下この配色です。


魔界出身であること以外は、ほぼ全て謎に包まれているキャラクター・アスラの公式ストーリーは次のようになっています。


アスラ斬魔伝(CD紹介・ネオジオフリークより)

Asuras=神を裏切るという意味。

※太古の昔※、魔界にふらりと現れた正体不明の男である。

魔手と呼ばれるその手から七つの古代武器を召還し、その剣術は天賦の才を誇る。

魔界全土を震撼させた男の牙は、※頂点である壊帝ユガ※にさえ剥けられたが、秘術の前に敗れ去り、

闇の奥深くに幽閉されてしまう。ユガ自身が倒れたことによって、呪縛が弱まった千載一遇の機会を、

この男が逃すわけはなかった…。

黒の拘束着を身にまとう。



彼の名前、アスラはインド神話に基づいているものであり、一般的にインド神話は一部の神々を除き日本では馴染みが薄いと思われるのですが、

「アスラ」という存在はポピュラーではないでしょうか。

創作世界においてアスラ・または阿修羅は数限りなく登場しています。

しかし、サムライスピリッツにおいてアスラと呼ばれたキャラクターのデザインや設定に、インド神話を想起させる要素はほとんどなく、

また彼の使用する武器には、キリスト教に基づいた七つの大罪の魔王の名がアナグラムで使用されています。 

及び、アスラの「羅刹」である「反面のアスラ」の技にはいわゆる「七大天使」をはじめとした天使の固有名詞が使用されています。



アスラという語源解釈にはいくつかの説があり、

「存在する、ある」を意味する動詞「as」に由来するとも、「呼吸、生気」を意味するアシュ(asu)に起源をもつとも、

また、「輝く」を意味するスヴァル(svar)から派生したとも説かれる。

あるいは、「神、神格」を意味するスラsuraに否定のaを加えてアスラ a-sura(神ではないもの)としたとも説かれる。

仏教では、阿修羅、阿須羅、阿素洛などと音写し、非天、不端正などと訳されることもある。

『インド神話伝説辞典』菅沼晃編  東京堂出版・初版1985年より



アスラ及び反面のアスラを設定したスタッフの意図したことであるかどうかは推測の域を出ませんが、

インド神話におけるアスラという言葉の注釈から辿っていけば、

アスラ=神ではないもの・魔としてのasura

反面のアスラ=svar(輝く)から連想される光=天=天使としてのasura

という解釈も導き出せるのでは、と考えたのですが如何なものでしょうか。



アスラ斬魔伝では、元々はナコルルの色違いが別人のように表現されたことを皮切りに始まった

「修羅」「羅刹」という一体のキャラクターの別人化が、サムライスピリッツシリーズでは最初で最後に、といっていいほど明確に行われました。

本編のタイトルロール(主題になっている役柄)であるアスラにおいて、それは象徴的な形で表れます。

アスラは仇敵のユガの手によって二つの相反する人格(魔王の名を冠した武器を持つ者と、天使の名を冠した技を持つ者)・

二つの肉体に分けられ、エンディングではユガを倒し、命がつきかける段階を経て両者の人格が統一される結末へと行き着きました。

アスラ斬魔伝におけるアスラの位置付けをまとめると、

”魔界の頂点・ユガに一人反旗を翻した実力派の剣士だったが、ユガに破れ封印された。背景は一切が謎”という印象に取れるのですが、

これが続編の「サムライスピリッツ新章・甦りし蒼紅の刃」(以下、新章)になるとかなり変化しています。



新章では、かつて二十年前アスラであった男は記憶を喪失し、「幽堕」の名を得て現れます。

その姿は反面のアスラの身体にアスラの魂が宿ったものであり、

新章における設定によれば、両者の融合により微妙な変化も表れているようです。

参考のために、幽堕でプレイした際のCPUテキストを以下に一部抜粋し考察していきましょう。


幽堕の掛け合いの相手は、

覇王丸→九葵蒼志狼→朧→命(に憑いた時の蛇)ですが、

蒼志狼との掛け合いにおいて幽堕は最初眠っており、その中で夢を見ています。

ここで断片的に、幽堕の失われた記憶が登場します。



幽堕の夢:『時を司る蛇、ユガよ』

『その7枚の翼がその証』 『七王の頂に君臨する者、ユダよ』

闇の声『我らが主よ、時の蛇に永劫の滅をっ!!』(おそらく七王)




そして、幽堕にとってのボスに当たる命との対決前のシーンで、命の魂に潜む(悪魔)=時の蛇は以下のように述懐します。



命(悪魔)=時の蛇「闇が来る、ワラワを救いに真の闇がのう・・・・・・。愛しや。黒き者がワラワを解放してくれる。

永かったわえ。あやつ(※)がわらわを封じ込めてより、ワラワの魂を解放する者をどれだけ待ったことか。来たわえ、来たわえ」

幽堕「忘れたのか、時の蛇ユガよ・・・・・・。オレはアスラ(無き者)そして復讐者。古の時、キサマに翼をもぎ取られ、闇へと堕ちた者」




幽堕は、制作上の都合もあるいはあったのかもしれませんが

アスラ時代の七つの武器は使用できなくなり、紅蓮刃(グレンジン)という刀を使い戦います。

新章の攻略本の設定資料では、斬魔伝時代に最初に登場した設定には「魔手」としか表現されていなかった右手の「万魔印」について、

七つの武器=7体の魔神の力であり、これを召還できる力を秘めた印・万魔印を持つことがすなわち万魔の王の証と設定されています。

七つの武器でもある魔神たちは意思を持っており、幽堕の記憶の中で、そしてエンディングでアスラを”我らが王”と呼んでいました。

すなわち、要はアスラこそが魔界の頂点である、と仄めかす要素となってはいないでしょうか。

そうすると、ユガがかつて万魔の王アスラを何らかの手段を以って陥れ、魔界の頂点を奪ったという解釈が可能となります。

斬魔伝時代の設定では、ユガは「魔界の頂点」と明記されていましたから、新章において幽堕=アスラとの逆転現象が起こったことになりますが

これが続編であるが故の後付け設定なのか、そうではないのかの判断は微妙なことになるように思います。

というのも、元々アスラの設定は斬魔伝時代ほとんど明かされませんでしたし、それは続編製作に関して余地を残した可能性もありますが

ユガがアスラを謀るなりして封じ、それによって魔界の頂点を奪ったというバックストーリーは予め存在したことも否定できないからです。

アスラが登場した時点での設定を見た限りでは、前者の線も濃厚ではありますが。



サムライスピリッツの世界における魔界についての情報がこれまでほとんど開示されなかったのと同様に、

新章での幽堕に関する物語についても、多くの謎が残ります。

例えば、七つの武器を持つ七王の持つ片方の翼と、アスラ=幽堕の背に現れる翼の関連性は何か。

アスラ(幽堕)・時の蛇ユガと魔界の神とされるアンブロジァには関連性があるのか、ないのか。

時の蛇ユガは、命のストーリーの述懐を見ると自ら命にとりついたというよりは何者かに封印された節があるのだが、

ならばユガを封じたものは誰か。また、時の蛇ユガが待ち続けた解放者・黒き者とはアスラ=幽堕ではないとすると一体何なのか。

これらは新章の続編と共に葬り去られ、解明されることのない謎として残っていますが

ひとつ、アスラ=幽堕の位置付けについておぼろげながら推測できる仮説をもって、考察に一区切りつけたいと思います。



一つ言えるのは、サムライスピリッツに組み込まれたアスラの行動原理とは己を貶めたユガに対する復讐のみです。

これまで魔界と関ったボスキャラの系統と比較してみてもアスラ=幽堕には、少なくとも人界に対し、

恨み・侵略などの意図がある描写は全く存在しません。

また、幽堕に関して語られる「真の闇を統べる者」・「闇が死を司る」などの言葉からして

人界に対し負の念を持つ魔ではなく、死の世界?としての魔界を統一すべき存在として描写されている、と解釈することは可能です。

そのアスラ=幽堕が魔界と思われる場所へ帰還したことによって、

完全に魔界と人界は切り離され、人間たちの物語同様魔界の進出にもピリオドが打たれた、ということになるのかもしれません。



時の蛇としてのユガについての考察は、後日公開したいと思います。

次へ


前へ   戻る  トップ