魔界に関する一考察(4)
〜「時の蛇」としてのユガ〜
引用文はこの色で表しています。
3Dポリゴンシリーズにおけるサムライスピリッツのボス・壊帝ユガは、
アスラ斬魔伝(以下、アスラ)のCPU戦にてプレイヤーキャラに1本取られた時に、
それまでのどちらかというと男性的な姿から変身し、
羽を持つ異形の女へと変化します。
そして、アスラの続編にして旧SNKサムスピシリーズ完結編となった『サムライスピリッツ新章・甦りし蒼紅の刃』
(以下、新章)ではユガはこの姿で(おそらくは精神体として?)反面のアスラと色の娘である命にとり憑き、
新章の舞台である離天京に現れた幽堕に「時の蛇」と呼ばれるのです。
今回、サムライスピリッツの魔界に関する考察の最終章として、
この「時の蛇」と呼ばれるユガについて取り上げてみることにしましょう。
かつてネオジオフリークに掲載されたアスラ斬魔伝における壊帝ユガの設定画には、
ウロボロス=オウラボロス(Ouraboros?)という一文が見られます。
これは壊帝ユガ第一形態における、ユガの衣裳の後ろ垂れの模様につけられた説明書きのようです。
前作侍魂(以下、ポリサム)において、ユガの衣裳の同じ部分にはユガを象徴する紋章……「”胎児”を象徴する妖しき文様」
(ポリサム、色のキャラクター設定文より)がありました。
ウロボロス(Ouroboros)とは、「己の尾を噛む蛇(大蛇、またはドラゴン)」という象徴的な存在であり、
グノーシス派や錬金術においては”時間の循環性や円還運動”を表し、
「体の半分は明るく、半分は暗い。一方は創造的・肯定的であり、
一方は破壊的・否定的で、蛇の持つ両義性をも表している。」と言われます。
また∞のマークの起源でもあるとか。
時間の循環性とはすなわち、やがては全てを無に返す時間の「破壊の側面」をも含むことになりますから、
ウロボロスは”全てを飲み込むもの”という解釈も加えられているようです。
つまり、アスラからユガの呼び名となった(明確に登場したのは新章ですが、設定画を見る限りアスラで萌芽は確実にあったと
いえると思います)時の蛇とは、そのままウロボロスをイメージとしていると見て間違いないでしょう。
しかし何故このウロボロスが、壊帝ユガのイメージに加えられたのでしょうか。
ユガをウロボロス=時の蛇とすることで、
ウロボロスを象徴として使用する事の多い錬金術の要素が加わり
これによってユガの魔術的なイメージが広がることを意図したのではないか、と私は考えました。
西洋における錬金術と言えば、本来は黄金を精製する目的で始められたものですが、
そこから派生して医学的・秘術的……むしろ(イメージとして)魔術的な要素も強まっていき、
今現在、錬金術に絡んで多用されるイメージで代表的なものが「万能薬エリクシール」や「人造生命体ホムンクルス」などでしょう。
ポリサムで確立されたユガの「人形師」という設定においては、
ユガは遺伝子操作に似た「秘術」を用いて人間を操り、また主に人間の肉体を材料にして「木偶♂・♀」や「巌陀羅」といった、
ユガの支配下にこそあるものの、とりあえずは自身で動く「人形」……ある意味では人造生命体……を
製作する技術を有する事が明らかになっています。
このユガの「秘術」が、ウロボロスという言葉を介して魔術的なイメージの錬金術と結びつけられた、とは考えられないでしょうか。
もうひとつ、微細ながら気になるのは
この「時の蛇」という呼び名は女性形態のユガにのみ当てはまるのではないか?という点です。
根拠は、ユガが半陰の女として求めた色の身体に、刺青のようにまとわりついている蛇の模様。
スタッフの言によれば、この「蛇の模様」は色が生まれた時からあったもの、
また「ユガ」の紋章は後に起こるある事件が引き金となり表面化したものです。となっています。
おそらくは、色が村もろとも家族を焼かれユガの手に落ちたときに、浮かび上がったものではないでしょうか。
するとそれ以前から存在していた(誕生した時には既に身体に持っていた)蛇の模様とは
「半陰の女」であることの証、との推測が可能になります。
一方、ユガに視点を戻しますと。
アスラ斬魔伝におけるユガ第二形態のデザインは、
後頭部が突き出し、ユガの本来の頭と逆向きにもうひとつの口がついています。↓参照。
新章CPUプレイにおいて、幽堕をボスとする 朧衆、命のみCPU幽堕戦前に流れるムービー「PAIN」よりピックアップしました。 copyright:SNKPLAYMORE 1999 |
ゲーム本編でも設定でも、攻撃するわけでも話すわけでもなく、如何なる役目も果たしていないようですが(^^;)
この、見た目が某有名宇宙生物ホラー映画の某マザーエイリアンを思い起こさせるユガのもう一つの口は、
そのままマザーエイリアンとすれば木偶や巌陀羅、反面のアスラといった異形の者たちの作り手=母であることを
象徴しているようにも思えてきます。
なんだかこじつけもいいところではありますが、そもそもポリサム時代からユガの紋章とされていたものが
胎児を……その周囲の模様は間違いなく子宮と思われます……表象しているのですから、
まんざら大はずれでもないのではないか?と。
蛇は脱皮をすることで再生や不死を象徴する生物であり、故に子を宿し産む役割を持つ女性と結び付けられ、
世界各地の神話で蛇をシンボルとするたくさんの女神が生み出され、
一方生理的に人間に嫌悪感を催させる事も多い爬虫類であり、その不気味さから邪悪に結び付けられ悪魔の象徴ともなりました。
ウロボロスと名付けられた蛇の文様を着物につけているのは男性形態のユガではありますが、
自身の真の姿がウロボロス=時の蛇=暗黒の創造主とならんとする(女)神、という主張であると考える事もできます。
最後に余談的なネタをひとつ。
アスラ斬魔伝において、ユガのステージBGMには「傀儡師」というタイトルがつけられています。
ポリサム時代には設定的な面ではすべて「人形師」と呼ばれていました。
アスラ斬魔伝のアレンジサウンドトラックにおいて、新世界楽曲雑技団の叙情派kitapyさん(当時)が、
わざわざこの傀儡師というタイトルについて言及しています。
内容は”前作での人形師ユガのことです”というものですが、どうしてわざわざ言及する必要があったのでしょうか?
そこで「傀儡師」「人形師」をそれぞれインターネット辞書にかけてみました。
「人形師」は”人形を作る職人”という意味合いの言葉、「傀儡師」「傀儡(くぐつ)」は以下の意味になるようです。
【傀儡師】
1 人形を使って諸国を回った漂泊芸人。
特に江戸時代、首に人形の箱を掛け、その上で人形を操った門付け芸人をいう。
傀儡(くぐつ)回し。人形つかい。《季 新年》
【傀儡】
1 歌などに合わせて舞わせる操り人形。でく。かいらい。
2 平安時代以降、1を操ったりして各地を漂泊した芸人。
のち、一部は寺社に仕え、布教に従事した。
推測すると、ユガのイメージの強化のための言及だったのでしょうか。
ポリサムでは”人形を作る者”、アスラでは”人形を操る者”に重点が置かれた、と。
その割にはポリサムのストーリーでは人形芝居で傀儡の封印を解くユガが書かれ、
一方アスラでは木偶や反面のアスラを制作した者としてのユガに重点が置かれているような気がするのですが(笑)
あと、傀儡師1の姿だと妙にお笑いぽいんですけど(^^;)
どんな格好で人形劇していたのかなぁ? ユガさま。
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参照url
オカルトの部屋より
The Skeptic's Dictionary 日本語版〜二千年紀のための懐疑論ガイド〜
参考文献
日欧対象イメージ事典 宮田登 深沢俊 共編著 1989年初版発行 北星堂
『侍魂〜サムライスピリッツ〜完全攻略マニュアル』芸文社・ネオジオフリーク編集部責任編集 1998年