魔界に関する一考察番外編 闇キ皇
初代サムライスピリッツにおいて、暗黒神と名乗るアンブロジァは直接次のような行動をとっています。
・ラストボスである天草四郎時貞の魂を魔界から現世へと帰還させる
そして、
・フランス王国の王妃を幻惑し、虐殺を行わせようとする
(具体的にはバスチーユ監獄の囚人たちを処刑しようと言わせている)
前者は天草の、後者はシャルロットの公式ストーリーにおいて語られています。
しかし、今初代のこのストーリーを読み返してみますと……
アンブロジァ小物臭すぎる
という気がビンビンにしてしまうのですが(笑)
天草の魂を戻してやることはできてもそれ以上のフォローをせず、「体は自分で探せ」とか言っちゃってますし、
勇敢で腕に覚えのある剣士ではあっても一応は普通の人間の女性であり、除霊の能力を持っているわけでもなさそうな
(少なくともそんな言及は一度もないはず)シャルロットのレイピアの一突きで、結果的にはあっさり退却していますし。
初代でのアンブロジァの描写を小物臭いと感じてしまうのは、続編の真サムライスピリッツで追加された設定により、
アンブロジァは”闇の大日如来”、いわば宇宙の根源もしくは化身という壮大な存在にスケールアップしているので、それが筆者の脳裏にあるのも一因でしょう。
乱暴に言ってしまえば、後付け設定が大袈裟すぎるということになるのですが、
これによってサムライスピリッツの世界の大きな支柱のひとつとなった暗黒神アンブロジァが
シリーズでどう扱われたかをまとめてみます。
(なお、RPG「真説サムライスピリッツ武士道烈伝」でもアンブロジァは登場していますが、
パラレルストーリーということで省いています。)
作品タイトル | アンブロジァの動向 | アンブロジァの配下の行動 | ステージ |
サムライスピリッツ (初代) |
天草を復活させる、フランス王妃を幻惑するなど主体的に行動しており、プレイヤーキャラ(シャルロット)の前に姿を現しもしている | 〔天草四郎時貞〕 パレンケストーンと半蔵の息子の体を強奪、現世を滅ぼそうとする。 |
天草のステージ(島原)の背景にある要石に封印されている様子。2本目に登場する。翼と角を持つ、古典的な悪魔のイメージ。 |
真サムライスピリッツ | 主体的な行動は影をひそめ、設定で多く語られている。 ラストボスである羅将神ミヅキの呼び出しに応じて契約を交わし力を与える。 |
〔羅将神ミヅキ〕 二つの秘石をアンブロジァに融合し、さらなる兇神化を図る。 |
ミヅキのステージ(恐山)の社の背景に鎮座する巨大な目の中の禍々しい赤子、胎動のイメージ? |
斬紅郎無双剣 | 言及なし。そもそも天草の存在を除いて、魔界は全く関わって来ない。 | 〔天草四郎時貞〕 キャッチコピーが「神魔の堕とし児」となっていたり、CDの曲目解説に「狂った怨霊に操られ」という一文のある所にアンブロジァの存在が匂わされているかもしれない。鬼(壬無月斬紅郎)の魂を求めている。 |
なし |
天草降臨 | 斬サムと真サムを繋ぐ位置づけになっているからか、背後にちらほらと存在が匂わされている。名前は出てこない。 | 〔羅将神ミヅキ〕 EDで台詞のみ登場。天草EDでミヅキが天草を封印したことを報告している相手はおそらくアンブロジァではないかと思われる。 |
なし |
64侍魂(ポリサム) | 設定において魔界の象徴であり崇拝の対象と言及されるのみで、完全に背景(バックグラウンド)と化している観がある。 | 〔壊帝ユガ〕 「半陽の男」覇王丸と「半陰の女」色に子(暗黒神の肉体)を生させ、その”三位一体”を用いて 暗黒神を復活させる(ただし、この”肉体”を必要としているのがアンブロジァなのかユガなのかが不明瞭である) |
なし |
アスラ斬魔伝 | ユガの仇敵である魔界の者アスラが登場。アンブロジァとの関係は全く言及されない。 | 〔壊帝ユガ〕 目的が「半陽の男」と「半陰の女」を人柱にしてなされる魔界と現世の合一へと変化 |
なし |
サムライスピリッツ新章 (蘇りし蒼紅の刃) |
アスラ(幽堕)とユガ(時の蛇)の決着はあるがアンブロジァ関連は触れられず |
〔時の蛇ユガ〕 命に取りつき「すべてを無に帰す」ことを宣言するが、実際には自分を解放してくれる者を待ち続けている。 |
なし |
サムライスピリッツ零 | アンブロジァの名はなく、魔界のものとして”闇キ皇(くらきすめらぎ)”が登場する。兇國日輪守我旺に取りつき、変身した状態のボスとしてプレイヤーキャラの前に立ち塞がる。 | 〔闇キ皇に関連するキャラ〕 兇國日輪守我旺・現在の憑代 劉雲飛・千年前の憑代 炎邪、水邪・闇キ皇の持つ「人魔一体の秘術」を狙う 風間蒼月、真鏡名ミナ・闇キ皇の存在を知っている |
なし |
サムライスピリッツ零SPECIAL・ 天下一剣客伝 |
プレイヤーキャラとして羅将神ミヅキが加わっているため、真サムと似た形での言及がある(狂魔王など)。 | 〔天草四郎時貞・羅将神ミヅキ〕 剣客伝では各々のEDで野望を果たす。 |
ボスである魔界を統べし我旺のステージが魔界。 デモ画面で、初代の要石の魔物に似た特徴を持つ魔物を踏みつけている。公式ストーリー参照 |
サムライスピリッツ閃 | 完全に魔界・魔物や超常能力の設定を取り除いているため、言及されない。 | なし | なし |
まとめていて気付いたのですが、サムライスピリッツシリーズで
”ラスボスが一本取られて変身する”という往年の?パターンを踏襲しているのは斬魔伝でのユガと闇キ皇だけなんですねぇ。
ようやくここで、本題の闇キ皇の名が登場しました(笑)前置きが長いのがこのサイトの特徴ですが
初代の二年前、という設定になっている(いろいろ細かいところがおかしいのは置いておいて)
サムライスピリッツ零でのみ登場する魔界のもので、アンブロジァ・ユガなどこれまでのシリーズに登場した魔界の存在との関連は一切不明です。
具体的な闇キ皇の行動は、
千年前、劉雲飛に憑依し中国大陸に災いをもたらした(その後雲飛もろとも封印された)
復活し、兇國日輪守我旺に憑依し現世に舞い戻ろうとする。
であり、零のシナリオ担当者が執筆した公式小説を読むと、闇キ皇についてはいくつかの描写があります。
・形を持たぬ念であり、故に現世で活動するには体=憑代が必要である
・魔界で胎動していることが、火山噴火や異常気象へ繋がり、引いては天明の大飢饉の原因となった。
・憑代の精神に依存して姿が変わるらしい。零のボス戦での鎧武者姿は我旺の精神状態の反映ということになる
・意思を持っている事は明白だが、人の言葉を発していない
闇キ皇の名前の意味ですが、”皇”は神・天帝・万物の主催者・文化創造の神・道教または仏教の神に対する敬称、天子に対する敬称。
(角川新字源より)と出ています。
闇キ、の部分はそのまま闇・冥界などに通じる言葉と判断していいでしょうから、そこからするとずばり「闇の神」という意味でしょう。
しかし、闇キ皇が暴れたとされるのは千年前の中国のみで、それを考えるとおそらく中国でしか知られていなかったと推測されるのですが、
なんで思いっきり訓読みなのかなぁ……(正確には古文。すめらぎは天皇の古語ですし)
闇キ皇が具体的にはどのような魔物であるかという説明や、アンブロジァとの関係の有無は一切言及されていませんが、
上記の特徴の中でアンブロジァとの共通点としては、なんらかの念の集合体らしい描写がされている点があげられます(初代とそのリライトストーリー内)。
闇の神という意味の呼び名と、憑代が必要な霊体(または念の集合体である)であるという共通点を根拠に、
闇キ皇=アンブロジァと考えることもできます。
この仮説で話を進めますと、零は初代の二年前の出来事ですので
その時点で闇キ皇=アンブロジァは、千年前の雲飛のケースを含め、生身の人間に憑依することで現世に現れた。
しかしいずれも撃退され、失敗。
初代サムライスピリッツの時代になって、天草の霊を誘い現世への足がかりを作ることにしたが、結果的に天草が倒され失敗。
が、これをきっかけに”暗黒の力”が”活性化”し、(ALL ABOUT真サムライスピリッツ下巻・徹底攻略編より)休眠していた
羅将神ミヅキが覚醒、アンブロジァをさらに兇神化すべく活動を開始する。
その後は「半陽の男」と「半陰の女」を利用して暗黒神復活を画策するユガの登場へと、
サムスピシリーズの魔界の系譜は続いていくわけですが、まとめると闇キ皇とアンブロジァを同一の存在とした場合、
現世に現れることが一応の一貫した目的であり、そのための手段が人間に直に取り憑く方法から部下に肉体を作らせる?方法へと
変化していった、ということになるでしょうか。
もう少し話を進めると、
初代の「暗黒神アンブロジァ」の為した行動の一つ、フランス王妃の幻惑は初代のリライトストーリーでは
「(王妃の)背後に異様な影」→「王妃が話しかけていた「もうひとり」の影。それは人の形をしておらず、邪悪な意志の集合体の様に感じられる」
と、憑依されたかのような表現から、完全に独立して王妃に話しかけている(しかし王妃の方は、アンブロジァの影響で乱心している)
という表現へ変化しています。
つまり、アンブロジァは人間に憑依する(ともとれる)という特徴が削られているのです。
これは初代から真サムへの流れで、先に述べたアンブロジァの神格化が影響していると思われます。
そして零を含めて解釈すると、アンブロジァは初代の時点で人間に憑依することを止め、外部から操ることにした、とも取れます。
これは私見ですが(闇キ皇=アンブロジァという仮説に立脚した場合)、闇キ皇が憑代に選ぶのは男性だけなのでは?
と思えるのですね(雲飛の次が我旺、という点から見て)。つまりフランス王妃は取り憑く対象と見ていない、と。
闇キ皇が取り憑くのが男性のみであるか否かという点は明言されていませんので、肯定も否定もできないわけですが。
ただし、(初代の)アンブロジァと闇キ皇には大きな相違点があります。
人の言葉を発するか否か。闇キ皇が人間に近い意志を持つ存在であることは確かですが、零の公式小説・ゲーム本編ともに
具体的に人の言葉を話したことは一度もありません。
ただ零の続編的意味合いも持つ天下一剣客伝(以下剣サム)では、機巧おちゃ麻呂の公式ストーリーで劉雲飛について
「闇キ皇と契約した仙術士」という表現が出てきます。(おちゃ麻呂の師父にして、製作を指示した高名な陰陽師の使用した表現)
契約、という表現からするとお互いの合意の下に成立したという意味合いが含まれますから、闇キ皇が人語を操れる可能性自体はある、
少なくともおちゃ麻呂の作り手である陰陽師の元にはそのように話が伝わっていた事が判断できると思います。
零において、闇キ皇が「暗黒神アンブロジァ」と同一の存在なのかそうではないのかの明言は避けられ、
旧SNK時代同様、プレイモア(旧悠紀エンタープライズ)作品においても魔界に関する存在についてはおぼろげにしか見えてきませんが、
ラストに、剣サムにおける”初代的な”アンブロジァらしき存在について語っておきます。
剣サムにおけるボスは、零のボス兇國日輪守我旺が闇キ皇と共に魔界へ堕ちた姿である
「魔界を統べし我旺」ですが、ゲームでのボス戦直前デモシーンにて、彼は紫の肌を持つ巨大な魔物を踏みつけにしています。
(余談ですが、この魔物のアップがロケテスト時のCPU戦の締めに使われていました)
「魔界を統べし我旺」のストーリーによれば、この魔物は”闇キ皇と同等かそれ以上の魔物と評し、魔界の支配階級に属すると”
我旺に判断されています。
そしてその姿が初代の天草ステージに出現した魔物=暗黒神に似ているということは、
闇の大日如来に格上げされる以前のアンブロジァ……要するに、初代の要素がこういった形で組み込まれているようにも思えます。