サムライスピリッツ零・公式ストーリー

緋雨閑丸


首斬り破沙羅


花諷院骸羅


羅刹丸



緋雨閑丸

「閑丸さん、食べ物とお金は残しておきますから。お留守番、お願いね」

 そう言って、儚は閑丸に優しく微笑む。

「それじゃ、行ってきます」

 出掛けていく儚の姿を、閑丸は見送った。

 溜息が漏れた。

「記憶も身寄りもない僕をずっとお世話してくれる儚さんと旦那さん……」

 ずっと記憶がない。思い出す兆候もない。

 閑丸はなけなしの記憶を思い出す。最初は、親切なお寺の住職がしばらくの間、世話をしてくれた。

それから自分自身を探そうと度に出たが、空腹で倒れていたところを、儚とその夫に助けられて――それからずっと、家族のように一緒に暮らしている。

 うれしくって、居心地が良くって、二人とも優しすぎて――いつまでも一緒に暮らせたらどんなに幸せだろうかと思う。

「僕がいない方が、もっと楽な暮らしが出来るはずなのに……。二人に何かしてあげられないかな……」

 儚は、近くにいるらしい父親を呼び寄せに出掛けていった。儚の夫は、金を稼ぐために仕事をしに日輪に向かった。

そして、二人の間にはもうじき子供が生まれる。

 いつまでも、二人に迷惑はかけていられない。

 噂は聞いている。日輪國では仕事が多く、この村からも多くの人が出稼ぎに向かっている。

「……よし……ぼくも……日輪に行こう……」





首斬り破沙羅

「ここはどこだい……」

破沙羅は酷く困惑していた。

「天草を狩っても……鬼を狩っても……篝火のところに逝けない……」

 そう、天草と鬼を狩った、それは覚えている。それなのに、それから今に至るまで、何があったのか――

まるで覚えていない、分からない。

 朽ちた建物の中にいるらしいが、見覚えがあるようなないような――わからない。

「そばにいておくれよ……篝火……」

 華奢な己の肩を抱き、破沙羅は震える。孤独と恐怖に、仮初の身体が凍る。

「……破沙羅」

 いつの間にか、篝火はゆっくりと宙を漂い、破沙羅の側を通り過ぎる。

「どこへ行くんだい、篝火……?」

「……まだ、やるべきことがあるの……。恨みを持ったまま死んだ人たちが、あなたにすがっているの」

 憂いを含んだ篝火の眼差しが、破沙羅に何かを強く訴えかける。

 破沙羅は頷く。

 篝火さえいれば、何もいらない。

 篝火のところに逝けるなら、何でもする。

「……分かったよ。それが終われば、お前のところへ逝けるんだね。篝火……導いておくれ……」

 先を漂う篝火の後を追って、破沙羅は闇の底へと赴く。

 二度と引き返すことの叶わぬ、闇の底へ……。





花諷院骸羅

「こわいよー! うわーん! 食べられるー!!」

「この×××××××がぁッ!!」

 子供の悲痛な泣き声と、野太い男の罵声が、その小さな村を揺るがす。

 子供は泣き叫びながら、骸羅から脱兎のごとく逃げ出す。

「………………」

 その子供の走り去る様を呆然と、まるで人事のように骸羅はしばし眺めていた。

「はっ! いかん。またやってしまった。俺は子供相手に何を怒って……」

 はたと正気を取り戻す。

 骸羅は先日、枯華院を飛び出してきた。理由は毎度のように修行を怠ける骸羅に、仏門における師であり枯華院の住職である和狆が

喝を入れようとして――大喧嘩と相成り、骸羅は売り言葉に買い言葉で枯華院を追い出される羽目になった。

「ジジイとケンカしてイラだっていたとしても、だ。平常心……そうだ、平常心……」

 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……と滅多に口にしない読経をして、それらしく平常心を取り戻そうと試みる。

読経のほかには、深呼吸ぐらいしか思いつかない。

「子供に限ったことではない。村に行っては老若男女に怖がられて……」

 言いながら、骸羅は気付く。気付いてはいけないことに。

「………………村人すべて?」

 がくり、と両手両膝をついてうなだれる。

 自覚は無いが、怒りをため込んでいるときの骸羅の表情といえば、まるで「鬼のよう」である。子供から見れば、鬼そのものである。

その上、七尺はあろうかという巨体である。

「仏門に下って早数年。まともに坊主やってるつもりは確かにないが……」

 和狆が聞けば「じゃったら真面目に修行をせんか!」と至極真っ当な説教が出てくることは間違いない。

「何だって俺は……寺には帰れんし。知らぬ地へ旅に出て、己を見つめ直すか」

 悔い改め、骸羅は立ち上がる。

 修行には決められたやり方は無い。自分なりのやり方もあるはずだ――。

「これも修行。人に好かれる徳を多少なり身に付ける、立派な修行だ!」





羅刹丸

「いいねぇ……この手応え……」

 羅刹丸は刀を伝わり、手に残った感覚に酔いしれる。この感覚はたまらない。人間を斬ったときの肉の感触は、まさに快楽。

 刀を舐める。新鮮な血がねとりと刃に絡みつく。美味だ。

紅く染まった刀身は、まるで手入れしていないために、何百と人を斬り続けて付着した血がそのまま染め上げてしまったからだった。

刀を舐めるたびに、己の舌に傷が入る痛みも心地よい。

 野盗は後悔してもしきれない。腰を抜かし、震えるだけで精一杯だった。とんでもねぇ化物に絡んじまった――そう思ったところでどうにもならない。

「覇王丸ってヤツ、知らねェか? 俺そっくりなヤツだけどよォ。知ってりゃ手前ェは許してやらァ」

「あ……ああ、知ってる。何日か前に、会った……あんたにそっくりな奴だった。滅茶苦茶強ぇ奴で、日輪に行くとかなんとかって……」

「ガセじゃねェだろうな?」

「日輪に強い奴が集まってて面白そうとかって言ってた。本当だ!」

「そうかそうかァ……ありがとよ」

 羅刹丸は、本当にうれしそうに壊れた笑みを浮かべて、野盗の男の見やる。

身包み剥ごうと寄ってきた小便野郎どもを、気分良くブッ殺していれば、予想外の情報を得た。

これはお礼をせねばなるまい――

「んじゃ、死ねや」

 まずは手堅く全身の表面を鱠斬りに。悲鳴を上げて逃げ出せば、踝を貫き、掌を踏み砕き、肩を穿つ。

それから、うまく死なないように、刀を逆手に持ち替え、ひたすら突き刺す。返り血が心地よく服に身体に染み渡る。

悲鳴が少なくなってきたので眼球を抉り、腸を引きずり出す。これまでにない絶叫が鼓膜と脳髄を震わせ、快感に喘ぐ。

 最後に、素手で、肋骨を砕き、肺を退け、心臓を――握り潰した。

 熱過ぎる血と内臓と、生命の消える瞬間を右手の中に集約し、羅刹丸は笑う。

「へっへっへ……やっと尻尾をつかんだぜ、覇王丸。ぶっ殺してやる。テメェの心臓でも食わなきゃおさまりつかねェんだ……」




    


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