月の光〜ナコルル・リムルル〜

 リムルルのモノローグ


リムルル「(M)これは…そう・・・・・・ずいぶん前のお話です。父さまが亡くなって・・・・・・

ナコルル姉様が、初めての旅に出ることになった時の物語。

こうして目を閉じると、あの遠い日が、まるで昨日のことのように思い出されます・・・・・・」


北海道カムイコタン

SE  木々のざわめきや川のせせらぎ、鳥達の歌声など美しい自然の息吹

SE 草を分けて、ナコルルが来る

ナコルル「(IN)リムルルー。出てきなさーい、リムルルー」

リムルル「(木の上で息を殺している)・・・・・・」

ナコルル「姉さんにはわかるんだから……木の上なんかに隠れてても」

リムルル「えッ?! (バランス崩し)うわッわッわッ……わぁーーーッ!」


SE  木の枝にバサバサと衝突しながら、落ちてくるリムルル

SE ドシーンと尻餅


リムルル「あいたたたたぁ……」

ナコルル「(苦笑して)ほら、見つけた」

リムルル「お姉ちゃん、お願い〜、見逃してぇ」

ナコルル「だめだめ」

リムルル「今日だけ!」

ナコルル「だ〜め」

リムルル「明日は、ぜーったい勉強するから!」

ナコルル「昨日もそんなこと言ってたでしょ。御爺様、カンカンよ!」

リムルル「う……」

ナコルル「遊びたいのは分かるけど……早く一人前の巫女になって、姉さんを助けてくれないと……」

リムルル「だいじょーぶ、だいじょうぶ。お姉ちゃん一人いれば」

ナコルル「何、言ってるの」

リムルル「父様だって、もうすぐ帰ってくるんだし」

ナコルル「それは……そうだけど……」

リムルル「ね? ね? でしょ、でしょ? (OUTしつつ)それじゃ、そういうことで〜」

ナコルル「あっ、こら〜! 待ちなさいってばー!」


と……その時

SE 遠くから、鷹(ママハハ)の鳴き声が……


ナコルル「? ……あれは……?」

リムルル「(OFF)なぁに?」

ナコルル「ママハハの……声……」

リムルル「父様だ……父様が帰ってきたんだわ!」


SE 走ってくる狼(シクルゥ)の足音

SE シクルゥの吼える声(IN)

リムルル「ん?」

ナコルル「……シクルゥ?」


SE シクルゥの荒い息遣い


ナコルル「(緊張して)どうしたの、シクルゥ?!」


SE シクルゥの哀しそうな吠え声


ナコルル・リムルル「えッ?!」


すべての音が消え……


リムルル「と、父様が……」

ナコルル「死んだ……?」




 同 (夕刻)


SE 前シーンと対照的な雰囲気で吹きすさぶ風


村人たち「(微かな泣き声)……」

リムルル「(わぁわぁと泣き)父様ぁ! どうして……どうしてぇ!」

サノウク「リムルル……おまえの父様は大自然のために、立派に戦ったのじゃ。おまえがそう泣いておっては、安らかに眠れぬよ……」

リムルル「でも……でもぉ!(大声で泣く)」

サノウク「(SE やさしく抱く)リムルル……」


SE ナコルルの足音IN


ナコルル「(IN)御爺様……禊(みそぎ)の容易が出来ました」

サノウク「お、おお。そうか……」

ナコルル「これから川へ参り、この身と……」


SE 宝刀チチウシを鞘から抜く


ナコルル「父様の残した刀を清めて参ります」

サノウク「うむ」

ナコルル「世界のどこかに、けがれた力を感じます。父の代わりに私が鎮めに行かなくては。

……明日の朝、ママハハと旅立ちます」

サノウク「……ナコルル……」

ナコルル「それでは……」


SE 踵を返すナコルル。と……

リムルル「(カッとなって)おねーちゃんッ!」

ナコルル「え?」

リムルル「(怒って)おねーちゃん……どうしてそんなに落ち着いてるの? 悲しくないのッ?

父様が死んだのよ! もう帰って来ないのよッ! なのにッ! どうして、どうして……」

ナコルル「……今、やるべきなのは泣くことではないわ。一刻も早くけがれを清める……

それが巫女としてのつとめ……」

リムルル「ばかあぁッ!! ばか、ばか、ばか……」

ナコルル「(息を飲む)!」

リムルル「だいッ嫌いだ! おねーちゃんなんてッ……(走り去る)だいっ嫌いだあーッ!」


SE 走り去っていくリムルル


ナコルル「リムルル!」

サノウク「リムルル! これッ、リムルルーッ! 待ちなさいっ」




 同、森中。 川べり(夜)


SE 虫の声やミミズクなど、夜の雰囲気音。静かな川音

SE 下生えの中、トボトボと来るリムルル

SE シクルゥの唸り声


リムルル「……(ぼんやり)いいんだよ、シクルゥ……今夜はおねーちゃんのとこなんか帰りたくない」


SE シクルゥの声あって


リムルル「おねーちゃんをかばうの? でも、あんなのヒドイよ。あれが巫女になるっていうことなら……

だったら、わたし巫女になんかならなくてもいい」


SE シクルゥの声


リムルル「ならなくったって……ならなくったって……」


やや、間があって……

リムルル「……(ポツリと)初めて喧嘩しちゃったな……おねーちゃんと……」


SE その時、パシャ!と水浴の音が……


リムルル「(ハッとなって)!」


SE 足を止め、傍らの茂みに分け入るリムルル

SE 水浴の音、近くなり……


リムルル「(見て)あッ、おねーちゃん! そうか……禊(みそぎ)をしてるんだわ」

(ナコルル)『(回想エフェクト)今、やるべきなのは泣く事ではないわ。

一刻も早くけがれを清める……それが巫女としてのつとめ』

リムルル「……やっぱりひどいよ。おねーちゃん冷たいよぉ……わたし絶対に許せない!」


SE 静かに唸るシクルゥ


リムルル「……え? なによ、シクルゥ? 何を聞けっていうの?」

ナコルル「(独り言)……父様……あなたはこうなることを予期しておられたのですね?

だから私に、巫女だけでなく、戦士の修行もさせた……この刀をママハハに持たせてよこしたのも……

父様の意志を継げということなのでしょう?」


SE 静かで澄んだ水音


ナコルル「大自然の声が聞こえます。助けを求める声が……噛む印巫女である私を呼んでいます。

だから私は行かなくてはいけない……(沈み込み)いかなくては……」

リムルル「(独白)おねーちゃん……?」

ナコルル「でもッ!」


SE バシャーン! と激しく水面を叩く音


リムルル「(息を飲む)!」


M ナコルルの慟哭


ナコルル「父様! 重いのです! 私はまだ十七の娘です……まだ力の足りない十七の娘なんです……

それが、どうしてこんな重い……どうしてこんなに重いお役目を背負えるというのでしょう?!」


リムルル「……」

ナコルル「私は……私は泣いてはいけないのですか?! 

大切な人が……父様が死んだというのに……泣くことも許されないのですか! どうして……どうして……」

ナコルルの声、涙まじりになっていき……

ナコルル「……どうして死んでしまったのです、父様! とお……さ……ま! (純真無垢な幼な子のように泣き始める)……!」

りムルル「……」


リムルル「(M)姉様の震える白い肩を……蒼い月の光が照らし出していました。

その光景はわたしの脳裏に焼き付いて離れず……そして、分かったんです。

あたしは、姉様を支えるようにならなくちゃいけないんだと。きっとそのために生まれて来たんだと……

だから……」




 村を見下ろす丘(翌朝)


SE 早朝の鳥のさえずりなどあって……


リムルル「……シクルゥ。姉様が旅に出たわ」


SE シクルゥの小さな応え


リムルル「わたし、強い子になるよ……今はまだ無理だけど、いつか姉様を守れるくらいに。見ていてね、シクルゥ」


SE シクルゥ、力強く吠える!


リムルル「……(凛として叫ぶ)氷の精霊よ!

わたしの大事な人が、これから恐ろしい敵に立ち向かおうとしているの! だからお願い、力を貸して!

すべてのけがれを凍らせてしまうくらいの力を!

……わたしの名前はリムルル! カムイの巫女にして戦士、リムルル!!」


SE その声に応えるように、氷雪の音があって〜〜

氷雪激しくなる……すべてを飲み込むように……



(終劇)


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