とあるアース女神(?)~雷神の妻の謎~



北欧の神の国、アースガルズの主神オーディンに次ぐ有力な神・トールの正妻である女神シフ。

本来かなり重要なポジションを占める女神のはず。が、そのわりに妙に影が薄い印象があります。

というのも、活躍するというか登場する神話が"ロキに髪を刈られた(その結果、夫の有名な武器ミョルニルを始めとする神々の宝が誕生した)"のみ……だからでしょうか。

そして、一体何を司る女神なのかもわかっていません。

日本ではあまり知られていない、『詩語法』やサガ諸作も参照に豊富な話題を提供してくれている2冊の北欧神話事典

『北欧とゲルマンの神話事典 伝承・民話・魔術』(原書房)『北欧・ゲルマン神話シンボル事典』(大修館書店)でさえも

そもそも元ネタが乏しいシフについては、通りいっぺんの事(つまり髪を刈られたこと・ウルとスルーズの母であること)しか書かれていません。




さて以前、④謎の神・ヘーニルの正体? その2にて、シフはアース女神に名前を挙げられている、と書きましたが、

お詫びして訂正します。これ、スノッリのエッダ第二部『詩語法』冒頭に並べられたアース女神に入っていたシギュン(ロキの妻。

北欧神話的に考えれば、世界に大地震がしょっちゅう起きないのは彼女のおかげなので、もしかしたらどのアース女神よりもありがたい存在かもしれませんw

と勘違いしてたみたいですw

そこでふと思い立って、スノッリのエッダ、つまり第一部『ギュルヴィたぶらかし』と第二部『詩語法』をよくよく見ますと……。




第一部でのシフの出番は、ウルの母であるということのみ。

第二部でのシフの出番は、上記に述べた"ロキに髪を刈られた"のみ。

(正確に言うと第二部はそれプラス、ある巨人が彼女について発言しているのですが(後述します)、その場にいた言及はないので……。)




『ギュルヴィたぶらかし』第35章~36章でアース女神たちが列挙され、

それぞれがどんな女神でどんな役割を持つのかを説明している部分でも、どういうわけかシフは全く出てきません。

さすがにというか、『詩語法』ではシフのケニングだけは紹介されているのですが(後述

『詩語法』冒頭で、アースガルズを訪ねてきたエーギルをもてなす宴で名前を挙げられているアース女神の中には(表にしてまとめています)




次のようなアース女神たちも同様だった。(男神たち同様に宴会の席に着いた)


フリッグ  フレイヤ ゲヴュン(=ゲヴィウン)  イズン(イドゥン)  ゲルズ  シギュン  フッラ  ナンナ 
オーディンの妻  フレイの妹  島引きの女神  ブラギの妻。
若返りの林檎を育てている 
フレイの妻  ロキの妻  フリッグの侍女  バルドルの妻。
あれ? バルドル没後なら殉死した筈では……。 





シフの名前がありません。

この宴会、巨人退治に行っている事も多いシフの夫トールがちゃんと参加しているのに……。

さらにエッダ詩『ロキの口論』のダイジェストと思われる『詩語法』第41章で、

今度はエーギルが返礼に開催した宴に参加した、アース女神たちの名前が挙げられていますが。0




それにアース女神、フリッグ、フレイヤ、ゲヴィウン、スカジ、イズンが参加した。




本来『ロキの口論』にバッチリ出ていて、ロキに酌をして私の悪口は言わないでと(結果虚しかったわけですが)、ちゃんと喋っているにも関わらずスルーって……。

どこか一か所名前が抜けているだけなら、ああケアレスミスだったんだな、とも思えますけど

ケニングとしてどうしても説明しなくちゃいけない部分を除いて、トールの妻というそれなり重要ポジションであるはずの女神をここまでガン無視しているとなると……

何かそうするだけの理由が著者のスノッリにあったから、としか考えられませんよ?




ではまず、スノッリの『エッダ』内における数少ないシフへの言及のひとつ・彼女のケニング(第29章)を見てみましょう。




シフはどのようにいいかえるのですか。

「トールの妻」「ウルの母」「美髪の女神」「ヤールンサクサのライバル」「スルーズの母」と呼ぶ。





で、はたと気づいたんですが、ケニングでシフはトールの息子の一人である"モージの母"とは呼ばれていません。

以前、トールの娘スルーズを取り上げたページで、何も考えずにモージをトールとシフの子と書いちゃったんですけど(^^;)

マグニがトールと女性巨人ヤールンサクサの子、というのは『詩語法』で明言されていますから、するとモージもシフの子ではなくヤールンサクサの子なんでしょうか?

このトールの息子たちは、1 マグニはメギン(力)から派生した名前・モージはモーズ(怒り)から派生した名前であり、

つまりは父トールの持つ特性(神の力アースメギン・神の怒りアースモーズはトールにのみ使われる言葉です)の擬人化のような存在とも言えます。

それでマグニがヤールンサクサ(名前はおそらく鉄(ヤールン)の短剣(サクソ)の女、の意味と思われます)2を母に持つなら、同じく父神の特性の擬人化であるモージも

ヤールンサクサが産んだトールの息子、と考えるのが妥当に思われます。



となると、シフが産んだトールの子は娘のスルーズ一人。

もう一人の子ウルは、トールにとっては「継子」なのがケニングで明言されていますから。

そのウルについて、私は前ページで「ニョルズの息子であるヴァン神族のフレイ」と同じ神! という仮説を立てたわけですが、

フレイとその妹フレイヤは、父親が一切出て来ず言及もされないウルと対照的に

母親が全く登場せず、言及もされていません。




いや、正確に言いますと一人だけ言及している神がいます。

エッダ詩『ロキの口論』で、ロキは神々を罵倒しニョルズに対してもかなり下品というか、ポ〇ノ的な悪口を浴びせているのですがその直後。

息子フレイを自慢したニョルズに対し、ロキは怒鳴ります。




「やめろ、ニョルズ。いい加減にしないか。それじゃ、もう隠してはおかんぞ。その息子というのは妹とこしらえたんじゃないか。思った通りよ」




ロキ曰く、フレイの母は父ニョルズの妹にあたる(ということは叔母でもある)女神。

つまり、ニョルズは近親婚をして、フレイとフレイヤは近親相姦の結果生まれた子供。ということになります。

これについては、スノッリ・ストゥルルソンのもう一つの著作『ヘイムスクリングラ(北欧王朝史)』の冒頭の一篇『ユングリンガサガ』の

第四章「ヴァン戦争」でも述べられています。




ニョルズはヴァン国にいたころ、妹を妻にしていた。

そこではこれが合法であった。二人の間にできた子がフレイとフレイヤである。

だが、アース国ではこのような近親者が結婚することは禁じられていた。




同じ章で、ニョルズと息子フレイはオーディンに供儀の祭司に任命され、フレイヤは同じく供儀を任される女性祭司となり、




フレイヤはヴァン国と同様に、アース国でもまず魔法を教えた。




と書かれています。

『ヘイムスクリングラ(北欧王朝史)』は歴史書の体裁で書かれていますので、神話と全て同一視できない面もあるかと思いますが、

ニョルズ親子がアースガルズにやって来た事に関して、エッダ詩『グリームニルの歌』には次のような一節があります。




その昔神々はフレイに歯の贈り物としてアルヴヘイムを送った。




歯の贈り物とは、子供に初めて歯が生えた時に贈るプレゼント、という微笑ましい風習だそうなんですが、

つまり、フレイが光の妖精たちの国とされるアルヴヘイムを神々にもらった時、乳児を脱したばかりの幼子だった、ということになります。

ということは、フレイがヴァン神族の国(ヴァナヘイム、とされている)からアースガルズにやって来た時期は彼が相当幼い時分か、

もしくはまだ生まれていなかった(母親の胎内にいて、アースガルズに来てから誕生した)という可能性も出てくることになります。



そもそも神話や古い歴史物語・また古代から中世までの物語などは、登場人物の年齢や時系列をそんなに綿密に決めていない事も多いのですが(^^;)

『ユングリンガサガ』の記述と『グリームニルの歌』の言及をすり合わせようと考えると、

ニョルズとフレイがアースガルズで祭司に任命されたのは、フレイが成長後だったということでもいいとしまして、

アースガルズに来た時フレイは幼児・もしくは生まれていなかった。

フレイヤはフレイの妹・言うまでもなく年下なので(もしくは双子と考えても)、兄フレイが歯が生えたばかりの幼児であったのなら、

同じくらいの幼児か赤ん坊か、生まれていない状態のはず。

それではニョルズ(とフレイ)が人質に送られたと書かれた時には言及されておらず、

なのにいきなり祭司に任命され、アースガルズに魔法を広めた女神「フレイヤ」とは、いったい誰なのか。




……何を都合よく、フレイが祭司に任命されたのは成長してから! と勝手に時間ずらしといて、

妹のフレイヤにはそれを適用しないの? と思われそうですが、それは後述するある女神の存在があるからなのです。




前ページで、フレイの名は「主人・支配者」を意味する、という一文を引用しました。

つまりその女性形であるフレイヤも、「女主人・女支配者」を意味することになり、

固有の女神の名前(この場合、フレイ=ウルの妹になる北欧神話で著名な女神)ではない、ということになります。
3

"フレイの歯の贈り物"を手掛かりに、私は次のように考えました。




アース対ヴァン戦争の後、ヴァン神族から送られた人質は、実はニョルズとその妹にして妻でもある女神「フレイヤ」であった。

このフレイヤはヴァン神族の女神に与えられる称号で"女主人"を意味し、彼女はアースガルズに来てから(アース神族に魔法を教え)

フレイとフレイヤとして知られる子供たちを産み、成長した娘に「フレイヤ」の称号を譲り渡した。

つまり、ニョルズと共にやって来た"その妹にして妻"である女神フレイヤは、よく知られたフレイヤ(フレイの妹)の母で先代である。 





「魔法を教えた」という記述から、フレイの妹・フレイヤはある女神と同一視されることもあります。

その女神とは、『巫女の予言』に登場するグルヴェイグ。

色々と謎の多い存在です。

そして、北欧神話を体系的にまとめ上げたスノッリの『エッダ』で(必要箇所以外シフを排除しているのに似て)

スノッリが完全に黙殺している女神でもあります。

では『巫女の予言』から、グルヴェイグをピックアップしてみましょう。




神々が槍でグルヴェイグを突き、ハール(オーディン)の館で焼いたときが、この世での戦の始まりであることを、私は知っている。

三たび焼いたが、三たび生れかえり、何度もくり返したが、まだ女は生きている。





とまぁ、とんでもないことになっています(笑)

次の節ではこう続きます。




どこへ行っても女はヘイズと呼ばれた。女は魔法を使ったからだ。どこでも女は魔法を使い、人の心を魔法でたぶらかし、みだらな娘たちの喜びだった。




さらにこの直後の節で、どうやらこのグルヴェイグ=ヘイズのために、アース神族とヴァン神族の間に戦が勃発したらしいことが語られています。



グルヴェイグの名のうち、グルは黄金を意味し、ヴェイグは『北欧神話宇宙論の基礎構造』(尾崎和彦著)によれば女性名の一部であり、

ヴァイキング時代には「この語は「強烈な飲み物」、さらに「強さ、力」の意味と結びついていた。」

ゆえにグルヴェイグの名は通常「黄金の強烈で破滅的な力と誘惑の女性的人格化」と解釈されている、とあります。



つまりですね。

私の説では、

魔法を広めた女神グルヴェイグ(黄金の強烈なる力)=フレイ(ウル)とフレイヤの母=ニョルズの妻にして妹(ヴァン神族の女神)

が、トールの妻として知られる女神シフである!
となるのです。



何故かと言いますと、『詩語法』で伝えられる"黄金のケニング"のうち、女神に関連したものは4つ。




「シヴ(シフ)の髪」「フッラの首飾り」「フレイヤの涙」「フレイヤの眼の雨または夕立」




シフとフレイヤは共に、黄金と身体が繋がっているとされている女神……黄金を生み出す・または黄金が身体の一部である、という特徴を持った女神だからです。



フレイヤは『ギュルヴィたぶらかし』第35章によると、長い旅に出た夫・オーズを慕って流した涙が黄金になったとされており、

シフは失った髪の代わりに、肌(頭皮)に直接くっつく「黄金製」の髪を小人によって作られています。



この他にも、フレイヤとシフには共通点があります。

トールと巨人フルングニルの決闘を扱う神話の冒頭(『詩語法』に収録・第24章)、アースガルズに入り込んでしまったフルングニルですが、アースたちに酒宴に招待され、




「そして酔っぱらってしまうと、大言壮語に不足しなかった。ヴァルハラをつまみあげて、ヨーツンヘイム(巨人国)に移すとか、

アースガルズを沈め、神々は皆殺しにしてやる。ただしフレイヤとシヴ(シフ)はいっしょにつれて帰る、といった。」





フレイの妹のフレイヤは、巨人たちによくつけ狙われる存在です。

同じ『詩語法』内でも、鍛冶屋を装って城壁を作ると申し出てきた山の巨人は報酬に太陽・月・フレイヤを求め、

エッダ詩『スリュムの歌』でも、巨人スリュムはトールの槌ミョルニルを盗み、返却の代償にフレイヤとの結婚を要求しました。

フルングニルのみ、フレイヤと同時にシフも連れ帰ると発言していますがその理由は、シフとフレイヤが母娘=共に黄金を生み出す女神、だったからではないでしょうか。

(フルングニルについては「スルーズの奪い手」というケニングが『詩語法』内で紹介されていますが、

これもスルーズがシフ(とトール)の娘だから、と考えることもできます。)




ここで話を少し戻しまして。

アース対ヴァン戦争の原因となった、と思われる女神グルヴェイグ(黄金の強烈なる力)・私の考えではシフと同一の女神――について、もう少し考察してみます。



グルヴェイグは登場した時、「神々が槍でグルヴェイグを突き、ハール(オーディン)の館で焼」かれたとすさまじい目に合わされているのですが、にもかかわらず

「三たび焼いたが、三たび生れかえり、何度もくり返したが、まだ女は生きている。」

これだけ読みますと、抹殺することのできない不死身の存在という感じで、故にグルヴェイグのくだりは黄金の精製を詩的に言い表している、と解釈されることも多いようです。



しかし私はこう考えました。

これは実際に殺害したというわけではなく、死に近しいと言えるほどハードな状態にせよ、生きてはいるのではないかと。

というのも、別のエッダ詩『オーディンの箴言』において、次のような節が出てくるからです。




わしは、風の吹きさらす樹に、九夜の間、槍に傷つき、オーディン、つまり、わし自身に我が身を犠牲に捧げて、

たれもどんな根から生えているか知らぬ樹に吊りさがったことを覚えている。


わしはパンも角杯も恵んでもらえず、下をうかがった。

わしはルーネ文字を読みとり、呻きながら読みとり、それから下へ落ちた。





この部分は、オーディンが苦行によってルーネ(ルーン)文字を会得したことを歌っているものと思われますが、

グルヴェイグが槍に突かれ、火あぶりにされたというのは、同じく魔法を会得するための苦行だった。とは考えられないでしょうか。

何故なら、この記述の後「ヘイズ=輝くもの(魔法使い・魔女によく使われる名という)」=グルヴェイグは魔法を広めて回っているからです。




これが原因でアースとヴァンの間に戦争(『巫女の予言』によれば、この世の最初の戦)が起こったというのは

グルヴェイグの広める魔法が当時のアース神族にとってはなじみのないものであったため、拒否感が昂じた故にと考えることもできますが

決着はつかず和平が結ばれ、グルヴェイグは夫のニョルズと共に人質としてアースガルズに送られ、

その頃にはヴァン神族の魔法を有益と見て、許容する気になっていたアース神族に再び魔法を広めて回った、と考えられます。


しかし、「アース国ではこのような近親者が結婚することは禁じられていた」ため、アースガルズに来た頃妊娠しており、

二人の子供フレイとフレイヤ(双子説もありますね)を産んだものの、グルヴェイグは兄にして夫であったニョルズと離婚させられ、トールの妻になったのでは?




では何故、フレイ(ウル)とフレイヤの母にしてニョルズの妻である、ヴァン神族の女神グルヴェイグ(自説)は、シフという名になったのでしょうか。




エッダ詩でのシフの出番は、息子のウルに似て少なく、ウルのケースよりさらに意味の取りにくい謎めいたものになっています。

英雄シグルズが、救出したヴァルキューレのシグルトリーヴァ(ブリュンヒルドと同一視されることもあります)から、

ルーン文字を習い忠告を受ける『シグルトリーヴァの歌』第28節にこうあります。




美しい女たちがベンチに坐っているのを見るときには、第五の忠告をします。

シヴの白銀に眠りを奪われないよう、女たちのキスを求めないようにしなさい。





この"シヴ(シフ)の白銀"は、『エッダ―古代北欧歌謡集』の訳注によれば解釈が分かれる言葉であり、

・トールの妻シフ。『詩語法』第39章では、「女はまたすべてのアースの女神、ヴァルキューレ、運命の女神、守護霊によってもいいかえられる。」とされ、

つまりケニングとしては「女」を表している。

・"友好信頼関係"を指し、"シヴの白銀"=和睦の金と推測される。(つまり他人の恋人や妻かもしれない女性に手出しして面倒事にならないよう注意せよ、という意味?)

・シヴの語は親戚・身内を表し、ドイツ語でのSippeに解釈される。

(Sippe:史学的には「古代ゲルマン民族における氏族団体ジッペ」・軽蔑的に「親族、親類縁者」・生物学では「(同根・同族の)グループ」を指す。

三省堂・クラウン独和辞典より)



どうもシフ(シヴ)という言葉は、「身内」「氏族」を意味すると解釈される事も多いようなのです。

女神の名前としては珍しいような気もしますが……。

しかし思うに、彼女の夫(自説では二番目の夫)トールはミョルニルを振るって巨人を倒す以外に、ミョルニルを使って結婚を祝福(浄める)し、

同じく火葬用の薪を浄め、神話内のみならずかつて北欧の人々が建立したルーン文字を刻んだ碑にも「トールはこの碑をきよめ給え」と彫りつけられた神。4

婚姻と葬儀という、人生の重要な節目(そして、どちらも氏族や共同体で執り行う行事でもあります)を浄める役目を持つ神の妻が、

「身内」「氏族」、つまりは共同体・もしくはそれを成立させるのに必要不可欠な"友好信頼関係"という、

ある意味夫の役目の強化に関連していそうな名前を持っていても、不思議ではないのでは?



というか自説に対する補強もしくはこじつけをするならば、

以前はアース・ヴァン両神族の戦=不和の原因となったグルヴェイグ(黄金の強烈なる力)から、和平のための人質としてヴァン神族からアース神族へと送られ、

いわば両者の"友好信頼関係"を取り持つ存在に変化したために、名前もシフ(氏族・または友好信頼関係)と改名した……。そう考えることもできるのではないでしょうか。



以上の自説をまとめると、こういうことになります。



ヴァン神族にグルヴェイグという女神がいた。ヴァン神族の国(ヴァナヘイム)で魔法を教え、「フレイヤ(女主人)」という称号を持っていた彼女は

アース神族の国(アースガルズ)にやって来て、オーディンの元で槍に傷つきその上火あぶりにされる、という苦行を為してさらに強力な魔術を身につけ、

アース神族にも広めようとした。

しかしそれに強い拒否感を示したアース神族は迷惑をこうむったとして、ヴァン神族に宣戦布告する。

長引く戦に倦んだ両神族は和平を結び人質交換し、グルヴェイグは夫にして兄のニョルズと共に人質としてアースガルズに再び赴き、

そこでフレイ(本名ウル)とフレイヤ(二代目)という兄妹を産んだ。(ヴァン神族の人質兼、ヴァン神族のある夫婦の養子として送られたのはトール=ヘーニルである)

アース神族の間に近親婚の風習はなかったため、グルヴェイグはニョルズと離婚させられ、

その後ヴァナヘイムから帰還したトールの妻となり、名前をシフと改めた。





では冒頭で提示した疑問・なぜスノッリが著作『エッダ』の中で、シフ=グルヴェイグを(ケニングを除いて)徹底的に排除したのかについては。

ヘルマン・パウルソンの著作『オージンのいる風景・オージン教とエッダ』P84には、こう書かれています。




巫女(『巫女の予言』の語り手)によれば、バルドルの死を悼んだのはフリッグだったが、男尊女卑主義者であるスノッリ・ストゥルルソンは、

オージン(オーディン)がもっとも嘆いたと言っている。なぜならバルドルの死が神々にとって恐ろしい喪失であることをオージンこそ、一番よく理解していたというのだ。




男神であるオーディンこそが至高で、女神はその後塵を拝さなければならない。

そのようにスノッリが考えていたのであれば、

(私の考えでは)オーディンが為したルーン文字会得のための苦行をさらに上回る激しい苦行を成し遂げ、

強力な魔法を会得し、アース神族とヴァン神族の諍いの原因にもなったが、結果的には両神族を魔法を広めることを通じて結び付けたともいえる女神を

認めたくなかったゆえに排除したのではないでしょうか?



また、ヴァン神族には近親婚の風習があり、一般には人倫に悖る行為・タブーとされているので

その罪過を男神のニョルズではなく、女神のグルヴェイグ=シフにだけ押し付け排除した、という風にも考えられます。

ただ、別の見方もありまして。




それはスノッリが、シフがちゃんと話しているという唯一の主体的行動を見せているエッダ詩『ロキの口論』をダイジェストした際、シフの出番を完全に削っているのは、

『ロキの口論』で示されたある"事実"を抹消したかったからではないか……? というものです。

『ロキの口論』終盤、神々に対して言いたい放題のロキに対し、トールの妻シフは彼に酌をしてこう言います。5




「ようこそ、ロキ。古い蜜酒のなみなみとつがれた杯をうけてください。

アース神の子らのうち一人だけには毒舌を浴びせないように」




蜜酒を飲み干したロキはこう答えました。




「あんたが男にたいして控え目で手きびしい人でしたらね。あんた一人はそうしてもいいところですがね。

おれはフロールリジ(トール)の女房と通じたやつを一人知ってるんだな。悪知恵のはたらくこのロキがそいつさ」





また、オーディンが変装した渡し守とトールが言い争うエッダ詩『ハールバルズの歌』で、渡し守ハールバルズはこう言っています。




「シヴ(シフ)は家で情夫をもっているぞ。そいつの面を見てみたいだろう。そのほうに力を入れたらどうだ。

そのほうがさしせまったことだろう、あんたには」





トールはこれに対し、




「わしにとり一番つらいことをでまかせに喋りおって。臆病者め。嘘だろう」




と返しますが、ハールバルズはさらに続けます。




「本当のことを言ってるんだ。旅がゆっくりすぎたのさ
(後略)




『ロキの口論』でロキ本人が「トールの妻と通じた男は自分」と発言しているところを見ると、本当らしく思えますね……。



シフのエッダ詩における出番は、"シフの白銀"という解釈の分かれる言葉を除けばこれが全てですので、

つまりシフという女神は、トールの妻にしてロキの愛人、ということになります。



そしてスノッリの『エッダ』においては、シフはそのロキに髪を刈られ、ロキの依頼を受けた小人に代わりの髪(カツラ)を作ってもらっています。

イドゥンの時と同じく、ロキは自分で騒ぎを起こして自分で収めるマッチポンプ的行為をしているのですが、

そもそもシフの髪を刈るとは、いったいどんな意味を持つ行為だったのでしょうか。



『ロキの口論』におけるロキは、エーギルの宴に参加しているアース神族を片っ端から、胸が悪くなるというか小気味がいいというか、感じ方は分かれると思いますが

罵倒して回っています。

参加した女神たちに対する罵倒は、その全部が彼女たちが"男好き"・つまり夫以外に情人を持っているか多情であるか、をなじるものですが

その中でロキ本人が自分とベッドを共にした愛人であった、と言っている女神はシフとスカディだけです。

(テュールの妻もロキの愛人で子供までできたとなっていますが、テュールの妻も子も名前すら判明しておらず、何の神話も残していない存在です)

愛人である、という『ロキの口論』での言及以外でも、シフとスカディはどちらもロキと関わっている神話があり、スノッリの『エッダ』によって伝えられています。



スカディはロキに命じて若返りのリンゴを育てている女神イドゥン誘拐を手引きさせた結果、アース神族(またはトール)に殺害された巨人シャツィの娘であり、

完全武装して父親の仇討ちをするためアースガルズに乗り込んできました。

彼女に対しアース神族は和解と賠償を申し出て、どうも未婚だったらしいスカディにアース神族から夫を選ばせ、6

また(スカディができそうにないと思って出した条件の)彼女を笑わせることに挑戦したのです。これを成し遂げたのがロキで、

山羊のひげと自分の下半身(と書いておきますが、要は性器の一部分です)をひもで結んで引っ張り合い、山羊もロキも悲鳴を上げるというものでした。

「ロキはスカジ(スカディ)の膝の中に転がりこみ、スカジは笑った」



そして『ロキの口論』での、スカディとロキの言い争いは次のようになっています。




スカディ「陽気だね、ロキ。だけど、そういつまでも尻尾をふらせちゃおかないよ。(中略)神々はお前さんを鋭い岩の上に縛りつけるだろうからね」

ロキ「いいか、
(中略)このおれを神々が鋭い岩に縛りつけることになるか知らないが、おれたちが巨人のシャツィをつかまえて殺したとき、

いちばん初めから終わりまでその場にいたのは、このおれだぞ」

スカディ「いいですか、シャツィがつかまえられて殺されたとき、いちばん初めから終わりまで、その場にお前さんがいたかどうか知らないけど、

わたしの家屋敷からあんたのところへは冷たい忠告しか行きやしないから」

ロキ「おれをお前のベッドに呼んでくれたときにゃ、このラウフェイの息子(ロキ)ともっと機嫌よく喋ったくせに。

二人の恥をさらけ出せというなら、こいつもばらしちまうぞ」





多分これが由来で、ロキのケニングには「ヘイムダルとスカジのけんか好きの敵」があるものと思われます。7

なおロキのケニングには、「シヴの髪をそこなう者」もちゃんと入っていました。


ロキがスカディを笑わせた件は、水野智昭の『生と死の北欧神話』(松柏社)によれば、ロキはスカディの膝に倒れ込むことによって「女性原理」に負けたことを示し、

それによって和解が成立・「山の女神」であるスカディとの和解で「来たるべき年の豊猟が約束される」となっています。



スカディの来訪は父シャツィの死の仇討ちのためであり、シャツィが殺害されることになったのはイドゥンを誘拐したため。

イドゥン誘拐の手引きとシャツィ殺害のきっかけは、ロキが原因と言えます。

つまり、イドゥン誘拐→神々が若返りのリンゴを失って老化→誘拐を手引きしたロキが責任を取ってイドゥンを取り返す→追ってきたシャツィは殺される

→スカディが父の仇討ちのためやって来る。彼女は父が死んだためか、アース神たちによっては笑わないと思っていたが、

ロキの滑稽な綱引きの結果笑い、アース神から夫を選んで和解した。



スカディにとっては父の死によって沈んだ気分を、アース神たちの・半分くらいはロキの慰めで取り返したので、ある意味父の死の原因になった……本人の言によれば

シャツィが死んだとき最初から最後までその場にいたロキのために、怒りと復讐に囚われはしたものの、慰められて新たな生活へと踏み出した。

ロキはスカディにとっては(父の死、というこれまでの生活の激変によって)気分を沈ませた相手であり、

同時に慰めをもたらした(新たな生活を始めるきっかけにもなった)相手とも言えるんですね。



要はロキは、一部の女神(スカディやイドゥン)にとっては「何かしらの異変をもたらすが、そこからの回復ももたらす」存在ということになります。



これをスカディ同様、ロキの愛人である女神シフに適用するとどういうことになるのでしょうか。

私の考えるシフの前身がグルヴェイグ="黄金の強烈なる力"を意味する女神だったということを考えると、スカディの場合のように丸くは収まらないというか、

元に戻ってはいおしまい、とはならない可能性も考えられるのです。

何故なら、イドゥンやスカディを襲った異変は、ロキが大きくかかわってはいても直接ロキがしでかした事ではありませんが、

シフの髪を刈りとったのはロキ本人であり、なおかつロキが関わる事で"呪われた存在"となった黄金があるからです。




先のページで考察した、アンドヴァリによって呪いをかけられた黄金は、その後浄化されるといったエピソードはなく、永遠に所有者を破滅に追い込む呪いの黄金のままです。

つまりロキが関わる事で"一度マイナス状態になるがそこからプラス状態へと回復する"のではなく、マイナスのままで終わるものもある、ということになりますね。

黄金と大きなかかわりを持つ(先述のように、黄金が体の一部であるというケニングを持つ)シフの場合、ロキと関わって(髪を刈られて)何がマイナスになったかというと、

アースガルズ屈指の実力者・オーディンに次ぐもしくは並び立つ神であるトールの妻でありながら、ほぼなんの役割も持たない女神になるという、

つまりは神としてのある種の没落です。



シフがアースガルズでトールの妻となる前・自説ではヴァン神族の魔法を広める女神グルヴェイグだった時は

彼女は苦行によって会得した魔術をさらに広めようとし、そのためにアース神族とヴァン神族の間に起きた戦の原因にもなりましたが、

和平の後は人質としてアースガルズに赴き(スノッリのニョルズへの言を借りれば、両神族の和解の因となった)、

アース神族にとっても重要な存在となる子供たち・フレイ(ウル)とフレイヤを産みました。

そこでグルヴェイグの役割はほぼ終わりを告げた……つまりグルヴェイグ=シフは北欧神話の黎明期を牽引した存在だったが、そこでお役御免になったことを象徴するのが

ロキによる髪刈りだったのではないでしょうか。

(この件をきっかけに、シフの夫トールはその象徴的な武器であるミョルニルを手に入れ、以後ミョルニルを振るって大活躍することとなります。

つまりグルヴェイグ=シフの「北欧神話の黎明期を開く」女神としての役割の終了が、ラグナロクまでの「世界が維持される状態」を創り出すことになった、とも言えるわけです)8

彼女の髪はおそらく元から見事な金髪で、グルヴェイグ(黄金の強烈なる力)の名を象徴していたのではないでしょうか。

髪は女の命、と古来言われましたが、見た目に重要な印象を残す事以外も、

実際に髪には(生きている間は伸び続け生えてくるものですから)命の象徴的部分があったと思われます。

一部の宗教者が髪を切ることは俗世との決別を意味するものであり、また捕虜・虜囚といった立場の人たちが剃髪されることがあるのも

彼らから自由を奪い、かつ世間と切り離された存在・ある意味で死んだようなもの、ということを思い知らせるためと思われますから。




参照URL  「聖書を遊ぶ・サムソンの髪」

髪を切られて窮地に、という物語が有名な旧約聖書の剛力の士師・サムソンについての考察。髪についての考察でもあり、とても興味深いです。




ロキは「何かしらの異変をもたらすが、そこからの回復ももたらす」神。ただしそれは(イドゥンやスカディのように)間接的にかかわった場合で、

アンドヴァリやシフの場合は両者に直接危害を加えていますから、その場合は純然たるマイナス状態……死や破壊、停滞をもたらす結果になるわけです。

かつて北欧神話の黎明期を牽引し、大地の生の側面を表す男神トールを夫に持ちながら、

大地の死の側面を代表する男神ロキを愛人にした(ロキに髪を刈られた)シフ=グルヴェイグは、

結果北欧神話の中では役割を持たない・停滞または後退した女神となってしまいました。




では最後に。

スノッリの『エッダ』序文では、(翻訳者・谷口幸男氏によって、(その信憑性には今日まで矛盾した見解があるが)とされていますが)

いわゆるエウヘロメス的解釈=エウヘメリズム(神話を歴史に取り込む・簡単に言うと神話の神々はかつて存在した人間が神格化されたと見るなど)が見られ、

トールは(トロイア戦争時のトロイア支配者であった)大王プリアモスの娘プローアン(またはトローアン?)と、

ムーノーンまたはメノーンという王の息子トロールと同一人物とされ(おそらく、トロール(Tror)は"トロイアのトール"的意味合いの名ではないかと思われます)9

トラキアことスルーズヘイムを手に入れてから




(前略)諸国をひろくめぐり、世界のあらゆる地方を探検し、独力で狂暴戦士や巨人のすべてや巨大な一頭の竜と多くの動物を退治した。

世界の北の地方でシービールという、われわれがシヴと呼んでいる女予言者と出会い、これを妻にした。

誰も彼女の出自をいうことはできない。彼女はすべての女のなかでもっとも美しく、その髪は黄金のようであった。」





と書かれています。

シフのもう一つの名とされるシービールは、すなわちシビュレーのことと考えられ、つまりは古代ギリシャ・ローマ時代においてアポロンの巫女を指し、さまざまな神秘的な伝説も残っています。

「誰も彼女の出自をいうことはできない。」という一節が、北欧神話においてもおぼろげな姿しか見えていないシフをよく表してはいないでしょうか。





次のページでは、ロキと(スカディと)シフの関係について明かされたエッダ詩、『ロキの口論』について、及びそこから導き出せた考察を少々してみたいと思います。





    






0 『エッダ』第二部『詩語法』冒頭、アースガルズを訪れてきた男エーギル(ことフレール)は人間とばかり思っていたのですが(^^;)

『詩語法』第41章でそのエーギルが返礼にアース神たちを宴に招待し、以後エッダ詩『ロキの口論』をダイジェストした内容が続き、妻が網で溺死者を捕まえるラーンであり

波の擬人化とされる娘が九人いることも述べられているので、海の神または巨人? であるエーギルで間違いないようです。

また第33章の海のケニングでは、「エーギルもフレームもギュミルもすべて同じであることがいわれている」となってますし……。

えっ、じゃあゲルズの父ギュミルも同一人物だったりするんでしょうか!?w(こちらは山の巨人てなってますけども)

しかし、41章は「なぜ黄金が「エーギルの火」と呼ばれるのですか。」から始まっており、

エーギル本人がそんな質問をしているという、
なんだかメタな気分になれる記述になっているのですが(笑)




1  トールの息子たちは、エッダ詩『ヴァフズルーズニルの歌』において、オーディンの息子ヴィーザルやヴァーリと共に生き残り、

「戦の終わりにミョルニルを手にいれてもつことになろう」 とされています。





2 尾崎和彦は『北欧神話宇宙論の基礎構造』の注(第二章六・P496)で

「ヘイムダルの9人の母」(大洋の波の擬人化・つまりヘイムダルは、波間から上昇する「日の神」と解釈される説あり)の一人、

ヤールンサクサの名は「女巨人」に対する普通名詞「ヤールンヴィジャ(Jarnviðja)」を思い起こさせる、という説を取り上げています。





3 『ギュルヴィたぶらかし』第35章で、フレイヤは夫オーズを探すため

「よその国の人々のところをめぐったとき、さまざまの名を名乗ったからなのだ」、ゆえに「マルデル、ヘルン、ゲブン、スュール」といったたくさんの名前を持っている、とされています。

この中のどれかが、「フレイヤ(女主人)」の称号を持つフレイの妹の"本名"かもしれません。

(まぁフレイヤの放浪とたくさんの名は、地方の女神たちがフレイヤの名の元統合されたことを示している可能性も高いですが)



4 スウェーデンやデンマークに、「トールが聖別せんことを」「トールはこの記念碑を浄めたまえ」と刻まれたルーン石碑があるそうです。

槌をもって浄める役割を持つトールは、ラグナロク後の新世界で「犠牲の枝をとり」または「生贄の枝を選ぶ」とされているヘーニルと、

「祭司的な役割」の点で共通している、とは言えないでしょうか。 

(トール=ヘーニルの自説に合わせると、つまりトールはラグナロク前もラグナロク後も祭司的な役割を持っている、となります)



5 先に引用した『生と死の北欧神話』(P94)には

「「異族の客人」を交えた宴席にて「酒杯」を注いでまわる王妃の最も重要な役割は、出身と利害を異にする人々の間の「平和の結束」を固めることであった。」とあります。

またフルングニルがアース神族に酒宴に招待されたとき、「フレイヤひとりがこのとき彼に酌をしてやることができるだけ」となっています。



6 スカディの婿選びには条件があり、足だけを見て相手を選ぶというものでした。

スカディは「この人を選んだわ。バルドルには醜いところはないでしょう」と言いましたが、選んだのはニョルズだったのです。

多分アース神一のイケメン、と思われるバルドルを夫にしたかったスカディがかわいいと思いました(笑)

『ギュルヴィたぶらかし』によれば、ニョルズとスカディは結婚後お互いの住みたいところで(ニョルズは領地ノーアトゥーンに、スカディは父の住居のあるスリュムヘイムに)

九日ずつ暮らしますがそれぞれ相手の土地になじめず、スカディはスリュムヘイムに帰ったとあります。

が、エッダ詩『スキールニルの旅』の冒頭、ゲルズを見初めたことで元気のないフレイを心配した(ニョルズと)スカディが従者スキールニルに理由を聞いてくれと頼み、

同じくエッダ詩の『ロキの口論』前置きでは、エーギルが神々のために宴を開催し、やって来た神の夫妻の中には「ニョルズとその妻スカジ」の名前もあるのです。

もしかすると、スカディがたまに自宅に帰るという形で、二人の結婚生活は続いていたのではないでしょうか?w




7  『詩語法』第15章・ヘイムダルの項目には、「彼はまたヴァーガ岩礁とシンガ岩の訪問者である。そこでヘイムダルはロキとブリーシンガメンの腕輪をめぐって争った」とあります。





8 象徴的なのが、ミョルニルが小人の作った宝物で一番よいもの、と決定された審議を行なったのが、オーディン・トール・フレイヤの三神なことです。

「オーディンとトールとフレイヤの下す決定は有効ということになった。」とあり、フレイヤが入っているのが、自説的には世代交代の象徴と言えます。





9 『エッダ』序文では、トロール=トールとシービール=シヴから17代目が、ヴォーデン=オーディンであるとされています。

この系譜に並ぶトロール(トール)の子孫=ヴォーデン(オーディン)の先祖たちの名前は、トールの別名やトールの息子たちの名前をもじったものや

バルドルをとりもどすための使者となったヘルモーズ(ヘレモーズ)、オーディンの子孫のひとりとされるスキョルド(スキャルドゥン)の名前も入っています。