千両狂死郎 物語りまとめ
※初登場作はこの色
※続投作品はこの色
無色は出場していない作品
歴代公式プロフィール
リリース順 | 作品全体の物語 | 時系列 | キャラクター別物語 |
サムライスピリッツ(初代) | 暗黒神アンブロジァによって復活した天草四郎時貞の怨霊が引き起こした異変を鎮めるべく、十二人の剣士が島原へ向かう。 | サムライスピリッツ零 | 飢饉で荒む世を憂い、民を慰める一助を担うべく、千両狂死郎は新たな歌舞伎の頂を求めて当てのない旅に出る。 魔に憑かれた我旺を倒した狂死郎は、エンディングで歌舞伎と薙刀=舞と武を融合させたまったく新しい歌舞伎に開眼する。 そんな彼の元に、南蛮渡来の"ぶうめらん"を持った男(『風雲黙示録』の主人公ショー・疾風に似ている)と、古武術を極めた男(『竜虎の拳』に登場した藤堂竜白に似ている)が現れ、まったく新しい武術"風雲拳"を唱える。狂死郎は胸を躍らせながら彼らとの手合わせに挑むのだった。 |
真サムライスピリッツ | アンブロジァに仕える魔界の巫女・羅将神ミヅキが甦った。十五人の剣士たちが、ミヅキの本拠地恐山へと向かう。 | 天下一剣客伝 | 京都での一座の巡業も無事千秋楽を迎え、狂死郎は天閣座にいにしえより伝わる舞を会得した者(機巧おちゃ麻呂)を訪ねる。その者は旅立った後であったが、管理者に彼が御前試合を気にしていたと聞いた狂死郎は御前試合への参加を決意する。 エンディングで、役目を果たす必要がなくなったおちゃ麻呂を一座に誘った狂死郎は、さらに御前試合の参加者たちを誘い狂死郎一座を大きくし、人々に笑顔を齎しながら新たな高みを目指していく。 |
斬紅郎無双剣 | 「鬼」と呼ばれる無情にして強力の剣士・壬生月斬紅郎を斃すため、十二人の剣士が立ち上がる。 | サムライスピリッツ(初代) | 江戸の町で知らぬ者なしと言われる売れっ子歌舞伎役者の千両狂死郎は、病に倒れた父の後を継ぎ座長に就任。 座長にふさわしい舞をと考えた結果、剣技を取り入れる事を思いつき薙刀を始める。 めきめきと腕をあげた狂死郎は腕に覚えのある者たちの挑戦を受けるようになる。 辞退していた狂死郎だが、父の臨終後はその遺言に従い歌舞伎を広め舞を極めんがために、自ら戦いの道に身を投じるようになった。 エンディングでは、狂死郎は島原城の前で公演を行い、観客の拍手喝采を浴びる。 |
天草降臨 | 天草四郎時貞が光(善)と闇(悪)に分裂し、闇の天草は島原に魔城を建立。十七人の剣士たちが島原へと向かう。 | 斬紅郎無双剣 | (公式小説より)京都四条河原で芝居小屋を建て、鬼を題材に取った「茨木」で評判をとっていた狂死郎は見物客の一人の少年(緋雨閑丸)に「鬼を見た事がないんだろ」「偽物だよ」と指摘され、自らの芸の至らなさに憤激し鬼の舞を極めるべく鬼を探す旅に出る。 "鬼"の殺害現場を目撃する事となった狂死郎はその"鬼の舞"の美しさに感激し、自らの舞もそのようでありたいと鬼との勝負に挑む。 エンディングで斬紅郎を倒し"鬼の舞"に開眼した狂死郎は江戸の町で「狂死郎 漢一代記」と題した公演を行いひたすら何日も舞い続ける。 見物客も去り楽師たちも倒れ、一人舞い続ける狂死郎は半年後舞を終える。 "その生涯は、まさに「狂死郎」の名に恥じぬものであった。" |
侍魂(64) | 人形師に身をやつす魔界のもの・壊帝ユガが復活。十一人の剣士たちがユガの元へと向かう。 | 天草降臨 | 肥前(現在の九州本島、佐賀県と長崎県の一部に当たる)での巡業中に鬼の噂を聞き付け、真偽を確かめるべく魔城へ向かった狂死郎。 エンディングで本業に戻った狂死郎の肥前での興行は大成功を収め、その名を轟かせる。 だが"鬼の舞"を極めてしまったためこの半年後、新たな魔物に狙われることになるのだった。 |
アスラ斬魔伝 | ユガの敵対者である魔界のものアスラが地上へ現われる。壊帝も再生し、十三人の剣士たちはユガを葬るため立ち上がる。 | 真サムライスピリッツ | 覇王丸と同じく、狂死郎もまた魔物に狙われていた。魔物は狂死郎の付き人に取り憑き、狂死郎に語りかけてきた。「貴様の白珠魂、もらった!」 そう言うや否や襲いかかってきたが、狂死郎は華麗な動作でそれをかわすと、逆に魔物を打ち伏せた。 「おのれ、あやかしめ。わしの魂、取れるものなら取ってみい」 エンディングで一人舞を極めたと述懐する狂死郎は、羅将神ミヅキの憑代となっていた舞姫・美洲姫を救う。 彼女に罪滅ぼしの方法として自分の一座の楽人となることを提案した狂死郎。二人は共に歌舞伎の道を歩み始める。 |
甦りし蒼紅の刃 | 二十年後。江戸近海の小島に存在する「離天京」を支配する覇業三刃衆を倒すべく、様々な立場の剣士たちが三刃衆の居城「天幻城」へと向かう。 | 侍魂(64) | 登場なし |
サムライスピリッツ零 | 初代の二年前。幕府に反旗を翻した武将・兇國日輪守我旺は魔界のもの”闇キ皇”にとり憑かれた。引き起こされる異変を鎮めるべく、二十四人の剣士たちが戦の場・黄泉ヶ原へと向かう。 | アスラ斬魔伝 | 本編への登場なし。 ただし、ネオジオフリークサムスピ後日譚の『剣客風説草紙』に、本編に登場しないキャラで唯一主役として登場する回がある。 参照 |
天下一剣客伝 | 本編の時間軸とは関係しないパラレルストーリーであり、エンディングは基本的に登場キャラクターの望みを叶えたものとなっている。 枠組みとしては、零の主人公徳川慶寅が主催する御前試合に四十一人の剣客たちが集うとなっている。 |
サムライスピリッツ閃 | 狂死郎の元に、欧州での公演の話が舞い込む。後援者は独立戦争で名を馳せたゴルバという将軍だというが、何故亜米利加ではなく欧州なのか、疑問を感じた狂死郎は様子を見ることにした。 ゴルバの目的が"将を探す事"であったと知り失望した狂死郎は戦いの末ゴルバを討ち取るが、エンディングで仇討ちに燃える私兵に囲まれる。 己の血で化粧を施し彼らの前で"鬼の舞"を舞う狂死郎。 「これぞワシの海外公演よ 」 |
サムライスピリッツ閃 | アスラ斬魔伝の結末の幾つかを無効にした翌年の出来事。 レスフィーア王国出身の軍人ゴルバが、祖国の再建のため日本は天降藩の鈴姫と前国王の形見のバスタードソードを狙って日本に刺客を差し向ける。ゴルバの陰謀に巻き込まれた剣士たちは彼の居城を目指す。 |
甦りし蒼紅の刃 | 登場なし |
◆概要
千両狂死郎は初代『サムライスピリッツ』(以下初代)から出場している12人の最古参メンバーの一員であり、
旧SNK時代の3Dポリゴンシリーズ三作を除いた全作品に出演を果たした(つまり2D作品では皆勤賞となる)レギュラーキャラクターである。
しかしながら『サムライスピリッツ完全ガイドブック』では、「狂死郎がシリーズ皆勤賞なのはなぜですか?
スタッフの間で特別人気があるのですか?」と、深読みをすれば
"ファン間で大して人気があるわけでもないのに?"と言わんばかりの質問をされているが(笑)
それに対して「海外市場を意識したキャラクターだからです。」という返答がされている。(P102)
初代でのスタッフコメントには、「海外からはとらえどころのない日本文化の極致として設定しました」という一文があり
"とらえどころのない日本文化の極致"として狂死郎に付与された属性は歌舞伎役者、というものであった。
狂死郎のデザイン上のモチーフは、『連獅子』に登場する赤頭(あかがしら)の獅子の精であり、
初代から二作登場した固有の投げ技のひとつ「髪転投」は、獅子の精の最大の見せ場である"狂いの動作"(身の丈以上の長髪を振り回す)のうち
右または左へ廻して振る「巴」と呼ばれる動作から来ているのではないだろうか。※1
一見、単なるイロモノキャラと思われがちな狂死郎だが
第二作目『真サムライスピリッツ』(以下真サム)では、ラスボスの羅将神ミヅキが付け狙う
特殊な四つの魂を持つうちの一人(白珠魂の持ち主)として設定されている。
しかしこの設定をよく見てみると、
同じく特殊な魂を持つ他の三人はそれぞれ覇王丸・柳生十兵衛・ナインハルト=ズィーガーだが
ズィーガーはモーントシャイン・ドラッヘ帝国を守護する最強の軍隊の隊長であり、
柳生十兵衛は公儀隠密剣士、すなわち将軍に直属し密命を遂行するという重要な役割を持っている。
つまりは両キャラとも、国家の内部で大きな役割を担う武人なのである。
覇王丸はそういった役職を持たず、どんな組織にも属さず、自己流の剣を振るい各地で腕試しをしている風来坊だが
サムスピのシリーズを代表する主役であり、天草四郎時貞・羅将神ミヅキ・壊帝ユガといった強大兇悪な魔物の首領たちを倒す力を有する豪の者である。
彼らと比べると、特殊な舞闘流歌舞伎を会得しているとはいえ、一介の役者に過ぎない狂死郎はいささか見劣りがする。
というより、何故武力において圧倒的な覇王丸たちと、本業は役者である狂死郎が肩を並べているのだろうか?
真サムより後にリリースされたという点で後付け設定に添う形になるが、ポイントになると筆者(管理人)が判断するのは、
第三作『斬紅郎無双剣』(以下斬サム)と第四作『天草降臨』(以下天サム)を通じて
狂死郎が"鬼の舞"を会得した事である。
千両狂死郎の大きな特徴として、斬サムにおいてサムスピ初の大幅な衣装デザイン変更があった事があげられる。
(斬サムでは他にナコルルの衣装がマイナーチェンジし、これ以降天サムではタムタム、『侍魂』ではリムルルが
以前の出場作品と衣装を大きく変えた)
派手な飾りをつけ、胸と足を露出させた衣装は、初代〜真サムに比べてより歌舞伎の舞台衣装らしさが増し、
追加された技にも蝦蟇地獄に代表される、如何にも歌舞伎的な派手さを押し出したものが増えた。
斬サムにおける狂死郎のストーリーは、"鬼"壬無月斬紅郎が人を斬殺する場面を見てその美しさに感動した、という
普通に考えると正気を疑われそうなものだが(笑)
この前段階と思われるのが、その設定の一部が続編の天サムに組み込まれた公式小説で
狂死郎が緋雨閑丸と出会う場面である。
鬼を題材にした歌舞伎を演じ評判をとっていた狂死郎は、閑丸に鬼を見たことのない偽物の演技と言われ、
己の芸の至らなさに怒り、"鬼の舞"に立ち会う必要があると旅立つのである。
その後に斬紅郎の殺人現場に遭遇したのだとすると、一見非道ながらも一応納得できる理由にはなる。
斬サムのエンディングは、"鬼の舞"を会得したと興奮する狂死郎が客にも一座の仲間にも配慮する事無く
なんと半年に渡って舞い続け、終わった時に「"狂死郎"の名に恥じぬ生涯であった」と、
死亡したともとれる一文で締めくくられている。
しかし狂死郎は何事もなかったかのように天サムに出場、その二作後の『アスラ斬魔伝』(以下アスラ)には
本編にプレイアブルキャラとして出場こそしなかったものの、公式発行誌『ネオジオフリーク』に
真サムエンディングを継ぐ形で阿国(美洲姫)とのその後が書かれ、
さらにアスラの翌年に当たる『サムライスピリッツ閃』にも出場し"海外公演"を行っているので
橘右京や牙神幻十郎よりも以前に「あれはなかったことにしてください」エンディングを持っていたことになる。
考えてみればかなり理不尽な事態の割に、ほとんど注目されたことは無かったのだが(笑)
この斬サムのエンディングは、実は真サム時代に原形を持っている。
スタッフインタビューで当時の製作総指揮セイウチ氏は「企画や開発の段階でボツになったおもしろいアイデアはありますか?」
との問いにこう答えている。
「(狂死郎のエンディングは)最初は、あの踊りが止まらなくなって、回転しながら空へ飛んでいってしまうと
いうのを考えたんですよ。「狂死郎の名にふさわしい死にざまであった」というコピーも考えて(笑)
(中略)半分マジでやりかけた」(『ALL ABOUT真サムライスピリッツ覇王丸地獄変 下巻・徹底攻略編』P228)
これそのものは没になったアイデアだが、斬サムのエンディングではシリアスな形で実現し、
そしてなかったことにされたと言える。
そのような"幻のエンディング"を経て、"鬼の舞"を会得した狂死郎は覇王丸たちと肩を並べる豪の者となったのではないだろうか。
(天サムのエンディングでは、狂死郎が"新たな魔物"(羅将神ミヅキ)に目を付けられることになったのは
"鬼の舞"を会得したためと言われている。)
目を転じると、SNKプレイモア時代にリリースされた『サムライスピリッツ零』(以下零)では
狂死郎のエンディングは花諷院骸羅と並ぶ"おふざけエンディング"となっているが
そもそも初代から、覇王丸(と不知火幻庵)のエンディングに『餓狼伝説』の不知火舞に似たキャラが登場したり
真サムでも引き続き『竜虎の拳』の藤堂竜白に似たキャラが不知火幻庵のエンディングに登場したりという
"伝統"があったのだから、狂死郎の零エンディングもそれに沿っているだけとも言える。
そこを除けば零のストーリーは、狂死郎が舞闘流歌舞伎に開眼するまでの道筋を一応きちんと描いている……と言えるだろう。
◆関連キャラクター
先代で尊敬する役者でもある亡き父親・千両狂志郎。
覇王丸とは初代ではライバル的な関係だったが(覇王丸は「あいつが来ると日銭が稼げねぇんだよ!」と言っている。参照 1・2)、
真サムでは友人を兼ねた関係になったようで
二人連れ立って悪事を企む勘定奉行・真壁将監の屋敷に乗り込み叩き伏せるという、時代劇のヒーローそのままの一幕を演じている。(参照)
この時真壁将監を探りに現れた柳生十兵衛は、狂死郎の"武芸"を文化人の一点で認めず、後々まで「ただの派手好き馬鹿の大道芸」と言い続けたそうである。
上記のストーリーには、狂死郎の昔からの友人で歌舞伎役者仲間でもある江戸一番の美形役者・鳴神弥久郎も登場する。
真サムのボス・羅将神ミヅキの憑代にされていた舞姫・美洲姫は狂死郎に救われ、阿国の名を与えられ狂死郎の一座の楽人となる。
『剣客風説草紙・伍之回』では、狂死郎にとり美洲姫=阿国は心の支えとも言える存在になったようである。
天サムのライバルキャラは橘右京。右京はほとんど返事をしていないが、狂死郎は右京の"舞"を見事と言っている。
零のエンディングでは、ショー・疾風に似た男と藤堂竜白に似た男とに狂死郎は勝負を挑む。
ショー・疾風に似た男は、『天下一剣客伝』(以下剣サム)のエンディングでも登場し狂死郎にエールを送る。
剣サムで狂死郎の目的にして御前試合の相手となるのは、千年の古来の舞を伝える機巧兵士・おちゃ麻呂である。
狂死郎が専用の登場台詞を持つのはパピー・黒子・おちゃ麻呂の3キャラ。
なおパピーは零で隠しキャラとして登場し、各キャラが専用の挑戦台詞を持つが
零でひたすらパピーを恐れていた狂死郎は(プロフィールでは"きらいなもの"は一貫して「犬」となっている)
剣ではとりあえず苦手を克服しようとはしている。
他に、猿のパクパクのストーリーモード(と、羅将神ミヅキのストーリーモード)で中ボスとして登場するが、
このストーリーでのパクパクはグリーンヘル(タムタム・チャムチャムの故郷)の村人が変身した姿という事実を狂死郎は知らない。
◆狂死郎の「十八番」
天サムのスタッフQ&Aは、「狂死郎の得意な歌舞伎の演目は?」に対し「暫(しばらく)です。」となっている。(P72)
『サムライスピリッツ完全ガイドブック』の初代≪サムライスピリッツ≫のQ&Aでは
「狂死郎の得意な演目は?」に対し、「暫(しばらく)や景清」とある。(P100)
斬サム公式小説では「茨木」を演じていた事が語られる。
これらの演目、及び狂死郎に関連する歌舞伎用語その他を、以下簡単に解説してみよう。
狂死郎の武器銘:薙刀「世話女房」
「世話女房」とは、歌舞伎の世界の役柄では、時代物(※2)の世話場(貧しい家の場面)に登場する「女房」役のこと。
役名としては、『菅原』の戸浪・『義経千本桜』の小せん・『佐倉宗吾』のおさんなどがあるという。
狂死郎の技名:「荒事師狂死郎"鬼の舞"」「荒事師狂死郎"血肉の舞"」
荒事師(あらごとし)とは「立役=若い男性の善人役」を指す四種の役柄(※3)のひとつで
武勇の豪傑・豪壮無比な役柄を指す。
つまり、荒事師狂死郎とは武勇の豪傑の役を演じる狂死郎ということになる。
美洲姫に与えられた新しい名:阿国
歌舞伎の祖と言われる出雲阿国。
出雲大社の巫女であった阿国は、大社の修繕費用を稼ぐため
踊りの一座を率いて諸国を漫遊していたがある時看板俳優が死亡。阿国は派手な衣装と飾りで踊り、
人気を博した。これが現在まで続く歌舞伎の元祖とされる。
「茨木」
(大江山の鬼・酒呑童子を倒した源頼光の四天王の一人)渡辺綱が腕を斬り落とした鬼・茨木童子が
綱の叔母・真柴(ましば)に化け、腕を取り返しにやって来る。
正体を現した茨木童子と綱の大立ち回りが見どころ。
ただしこれの初演は明治に入ってから(明治16年新富座にて。茨木童子は五代目尾上菊五郎・渡辺綱は初代市川左団次)、とのこと。
「暫」
「歌舞伎十八番」のひとつ。剛勇の英雄が登場し、人々を虐げる悪を倒して正義を貫く、勧善懲悪の爽快な芝居である。
タイトルは、悪人によって無実の人々がまさに斬られようとしている時主人公が現れ、三度
「しばら〜く」と呼びかけるのに由来する。
「景清」
主人公の悪七兵衛景清は、平家滅亡後源氏へのレジスタンスを続けた伝説的な剛勇の士として名高く
早くから様々な芸能に取り上げられていた。
この演目では牢に囚われた景清が目の前で妻子を責められ、怒り頂点に達して牢を破る荒事が最大の見せ場である。
アマノウズメ(天宇受売命・天鈿女命)
初代の狂死郎の公式ストーリーでは、父親が臨終に際しこう言い残している。
「歌舞伎の素晴らしさを世に伝え広めよ。お前の剣技はアマノウズメの舞いのごとく美しい」
アマノウズメ(天宇受売命=古事記、天鈿女命=日本書紀)は日本神話において、技芸の守護神とされる女神。
『日本書紀』に「巧に俳優(わざおぎ)をなし」という記述があることから芸能一般の神ともされる。
能の大成者である世阿弥も著書『風姿花伝』の中で、猿楽の始まりはアマノウズメにあるとしている。
アマノウズメは天の岩戸の前で舞い、隠れていたアマテラス大神の気を引き
また天孫降臨において猿田彦に最初に話しかけた(踊りで気を引いた)ことでも有名。
この女神の舞は、そもそも巫女が神霊を降ろすためのトランス状態(変性意識状態)とされている。
真サムでの初代リライトストーリーでは、狂死郎の父親(千両狂志郎)の遺言は
「(前略)お前はこの父を遥かに越えた。剣技と歌舞伎、それは死と芸術の融合であり、死に向かう私にはその素晴らしさがはっきりと解る。」
となった。さらに二代目狂志郎はこの時、先代によって"狂死郎"の名を与えられたのである。
亡父のこの言葉は、その後の狂死郎の生き方を決定したと言えるだろう。
注
※1 ちなみに『連獅子』には紅白の頭の獅子の精が登場するが、白頭(しろがしら)が親で赤頭(あかがしら)が子に当たる。
そこからすると、千両狂死郎の先代である父(千両狂志郎)は白頭姿であった?とも考えられる。
※2 また時代狂言。江戸時代以前を舞台にした芝居の総称。
細分化して平安時代の貴族を扱ったものを「王代物」、鎌倉・室町時代の武士を扱ったものを「時代物」、
主家乗っ取りを主題としたものを「お家物」と称する場合もある。
※3 あとの三種は「和事師(わごとし)」やわらかい演技をする色男、「実事師(じつごとし)」篤実さや判断力を備えた役、
「和実(わじつ)」は上の二つの融合。役柄としては『石切梶原』の梶原、『実盛物語』の実盛など。
参考文献
『名作歌舞伎全集 第十八巻』 東京創元社
『伝統芸能シリーズ2 歌舞伎』 和角仁 著 株式会社ぎょうせい
『歌舞伎の事典』 藤田洋 新星出版社
『日本の神々 神徳・由来事典』 三橋健編著 学習研究社(Gakken)
『風姿花伝』 世阿弥 校訂・野上豊一郎/西尾実 岩波文庫
『ALL ABOUT真サムライスピリッツ覇王丸地獄変 上巻・しすてむ解析編』P56より
千両狂死郎オープニングストーリー